COP27の基礎資料 「IPCC報告書」を わかりやすく解説(1)

記事のポイント


  1. IPCC報告書はパリ協定「1.5℃目標」など、気候変動に関する国際的合意の根拠に
  2. COP27もIPCCの科学的知見をもとに議論が進むはずだが、報告書の内容は難解
  3. そこで気候変動と人間活動の関係など、重要なポイントを抜粋して解説する

脱炭素の議論で必ず耳にするのが、IPCC報告書だ。パリ協定の「1.5℃目標」など国際的合意の根拠は、この報告書が元になるケースが多い。11月6日に始まった「COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)」も、IPCCの科学的知見をもとに議論が進むはずだ。しかし報告書は難解で、読むにも一苦労だ。そこで最新版となる第6次評価報告書の「第1作業部会報告書」について、2回に分けてできるだけ分かりやすく説明してみる。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

第1作業部会報告書は気候変動が人間活動によることを「疑う余地がない」と初断定

■国連に気候変動の対策案を報告

IPCCとはIntergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の略で、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立した政府間機構だ。世界で行われる気候変動に関する研究、観測、シミュレーションなどを取りまとめて、対策案を国連に報告する。

メンバーは世界各地の大学や研究機関に属する気候や環境の専門家で、執筆者数は200人以上に及ぶ。ただし、IPCC自体が何らかの実験や観測を行っているわけではない。1990年から数年おきに報告書を出しており、現時点の最新版が「第6次評価報告書(AR6)」で、3つの作業部会報告からなる。

・第1作業部会報告書(2021年8月):気候変動の原因が人間の活動にあることを「疑う余地がない」と初めて断定

・第2作業部会報告書(2022年2月):「気候変動が広範囲に悪影響を及ぼしている」と警告

・第3作業部会報告書(2022年4月):気温上昇を産業革命以前から1.5℃に抑えるために取るべき施策をまとめた

今回はこの中から、第1作業部会報告書を取り上げる。報告書は英文で約2400ページあり「政策立案者のための要約」というダイジェスト版もある。しかしこれも難解なため、細かい話は抜きにして概要を紹介したい。

報告書の流れは次のようになっている。

A章「気候の現状」:世界でどのような気候変動が起こっているのか(あるいは起こっていないのか)を確認し、その原因を特定


B章「将来ありうる気候」:今後どのように気候が変わっていくのかを、いくつかのケースをあげて予想

C章「リスク評価と地域適応のための気候情報」:気候変動が進行した場合、どのような問題が発生するのかを予想


D章「将来の気候変動の抑制」:気候変動を抑制するための提言を行う

■CCO2濃度は200万年で最高に

気候変動の予想は、地球の広範囲をカバーし、何万年にもわたる過去を検証し、自然と人間活動の両方の要因を加味しなければならない。このため、取り上げたデータには予測の確信度が低いものも含まれる。

ここではIPCCによって確信度が「高い」あるいは「非常に高い」、信頼度は「ほぼ確実」、「可能性が非常に高い」、「可能性が高い」と分類された項目を紹介する。

A.気候の現状

2019 年の温室効果ガス(GHG)の年平均値は、以下のとおりだった。

二酸化炭素(CO2)             :410 ppm

メタン(CH4)                   :1866 ppb

一酸化二窒素(N2O)         :332 ppb

CO2 濃度は過去200万年で、CH4 とN2O の濃度は過去80万年間で、それぞれ最も高くなった。増加率でみるとCO2 濃度は1750 年以降47%、CH4濃度は156%に。これは自然の変動量をはるかに超えており、人間活動が引き起こしたと考えざるを得ない。


現在の世界平均気温は19世紀後半(1850~1900 年)に比べて、1.1℃前後高くなっている。図―1左側の図で示すように気温の上昇は1970 年以降が急激で、過去2000 年間で経験したことのない速度だ。図−1の右は、左図の1850年から現在までを拡大したものである。

図―1 世界平均気温の変化(1850~1900年の平均値からの変化)

黒い線が実際の測定値を示すが、1950年あたりからの気温増加が著しい。青い線が自然要因(太陽光の変化や火山活動の影響)だけを考えた場合の予想値。茶色の線は人間活動による影響を加えたシミュレーション結果を示す。

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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