気候変動による暑さで世界中の妊婦のリスクが倍増に 米研究

記事のポイント


  1. 米研究機関が、猛暑が、妊産婦の健康・出産に及ぼす脅威を分析した
  2. 妊婦にとってリスクが高まる「危険な高温」の日数は気候変動で倍増した
  3. 高温が、妊婦にとってリスクとなる理由や対策について専門家に聞いた

米研究機関のクライメート・セントラルは5月14日、猛暑により世界中で妊婦のリスクが急上昇していることを示す報告書を発表した。同報告書によると、妊婦にとってリスクが高まる「危険な高温」の日数は、人為的な気候変動により倍増した。妊婦にとって暑さがリスクとなる理由や、暑さによる妊婦や赤ちゃんへのリスク、対策方法などについて、東京科学大学教授の藤原武男教授に話を聞いた。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

暑さによる妊婦へのリスクが世界中で高まる

米研究機関のクライメート・セントラルは、2020年から2024年の5年間、世界247カ国・地域の940都市の日別気温を分析し、暑さが妊婦の健康と出産に及ぼす脅威について分析を行った。それによると、ほとんどの国(222カ国)で、早産や母体合併症リスクが高まる妊婦にとっての危険な高温日数(年平均)が、気候変動がなかった場合と比べて2倍以上に増えた。

約3分の1の国(78ヵ国)では、妊婦にとって「危険な高温」の日数(5年平均)が、1か月以上増えた。また、「危険な高温」の日が最も増えたのは、カリブ海諸国、中南米、太平洋諸島、東南アジア、サハラ以南のアフリカなど、医療アクセスが限られた途上国地域だった。

■なぜ、暑さは妊婦にとって危険なのか

東京科学大学の藤原武男教授は、高温が妊婦にとって危険な理由を次のように説明する。

「妊娠していると、赤ちゃんや胎盤(赤ちゃんを育てるための器官)にエネルギーを使うので、体の中で熱がたくさん作られます。また、妊娠中は体重や脂肪が増えるため、体から熱を逃がすのが苦手になります。普通なら皮膚の血流を増やして体の熱を逃がしますが、あまりにも暑すぎるとその方法でも体温を下げきれなくなります」

「さらに、湿度が高いと汗がうまく蒸発しないので、体を冷やす力も弱くなります。妊婦さんは汗をかきやすくなっていますが、長い時間、強い暑さが続くと、脱水症状や熱中症になる危険が高まってしまいます」

■妊娠期間中、特に暑さに注意が必要な時期は

妊娠期間の中でも、暑さによる影響に特に注意が必要なのが、妊娠初期(0〜12週)から中期(13〜27週)だという。

「妊娠初期は、赤ちゃんの大事な器官(心臓や脳など)が作られる時期なので、暑さによる影響を受けやすく、中期も、妊娠高血圧症や妊娠糖尿病、赤ちゃんの発育遅れが起きる可能性があります」(藤原教授)

「また、妊娠後期(28週以降)も、早産や赤ちゃんが小さく生まれるリスクがあるので油断できません。ただし、いつが一番危ないかについては、まだはっきりわかっていないため、妊娠中はずっと暑さに気をつけた方がよいです」(同)

■暑さが妊婦や赤ちゃんに与える影響は

これまでも数多くの研究で、暑さが妊婦や赤ちゃんに悪い影響を与えることが明らかにされてきた。

藤原教授は、暑さが妊婦に与える影響として、以下の3つを挙げた。

  • 妊娠高血圧症(血圧が高くなる病気):特に妊娠のはじめから中ごろに暑さを受けるとリスクが高まる
  • 妊娠糖尿病(妊娠中に血糖値が高くなる病気):暑さによりリスクが高まる
  • 前期破水・胎盤早期はく離・出血(おなかの中で赤ちゃんを守る膜や胎盤が早くダメになること):暑い日が続くと起きやすくなる

その一方で、赤ちゃんへの影響についても、下記のリスクを挙げた。

  • 死産・流産:暑さで赤ちゃんがうまく育たたなくなるリスクが高まる(特に妊娠初期)
  • 早産:暑いと早産の可能性が高くなる
  • 低出生体重:暑さで赤ちゃんの成長が遅くなる
  • 先天異常:妊娠初期の暑さでリスクが高まる可能性がある

■日本で妊婦の猛暑リスクが高い都道府県は
■ 日本の夏への対策は

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動

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