自国第一主義の相克: 軋むグローバリゼーション

記事のポイント


  1. 自国の主権や利益を第一優先に考える「自国第一主義」が台頭してきた
  2. 背景にはグローバリゼーションをゆがめた新自由主義や株主資本主義が
  3. 何がこの流れを断ち切り、健全な発展を実現できるのか

自国の主権や利益を第一優先に考える「自国第一主義」が台頭してきた。その背景には「グローバリゼーション」をゆがめた「新自由主義」や「株主資本主義」がある。日米欧の先進国でも正当な分配ができず、格差拡大が進んだことも大きい。何がこの流れを断ち切り、健全な発展を実現できるのか。(オルタナ輪番編集長=吉田広子、池田真隆、北村佳代子)

青がEU 離脱が正しかったと回答した人の割合、黒が間違っていたと回答した人の割合。 その差は年々広がっている。 英世論調査会社ユーガブの資料を基にオルタナ編集部作成

英国では、EUからの離脱、いわゆるブレグジットを後悔(リグレット)する「ブレグレット」が広がる。英世論調査会社ユーガブは2025年6月、「ブレグジットは失敗だった」と考える英国人の割合が56 %に達したことを明らかにした(図参照)。

過半数を超えたのは今回が初めてではない。3年前の22年7月下旬から、ブレグレットの割合は一貫して50%超で推移している。同社の調査では、「EUへの再加盟を望む」と回答した割合は56%に、「EUとのよ緊密な関係を望む」に至っては65%となっている。

英国が正式にEUから離脱したのは保守党デビッド・キャメロン政権下の16年6月だった。ブレグジットを議論していた当時、同じ保守党のテリーザ・メイ氏(後に首相)らは、一定の条件でEUとマーケットをシェアする「ソフトブレグジット」を主張していた。

しかし最終的には、ボリス・ジョンソン氏(後に首相)らが「ハードブレグジット」を推し進めた。EUとの経済的なつながりを完全に断ち、政治的な主権を重視するものだ。これによりEUの単一市場や関税同盟から離脱し、独自の貿易協定を推進した。

EU政治に詳しい新潟国際情報大学の臼井陽一郎教授は、EUの法秩序に反発してきた経緯があるため英国のEU再加盟の可能性は低いが、「ソフトブレグジットに戻る可能性は高い」と指摘した。

EUがノルウェーやトルコと保っている関係性と比較するとさらに緩やかなものになると推察する。ノルウェーは欧州経済領域(EEA)協定を通じて、EU市場に参入でき、トルコはEUと関税同盟を形成している。

臼井教授は、今後、英国とEUは貿易協定を更新し、「緩やかだが、部分的な統一が作られていくだろう」と語った。

英国・EUをつなぐ「脱炭素政策」 その臼井教授は、「英国とEUをつなぐカギは、実はカーボンプライシングだ」と予測する。カーボンプライシングとは、炭素に価格付けをする政策だ。

「排出量に応じて課税する「炭素税」や、政府が事業者に割り当てる温室効果ガス(GHG)の排出枠を超えた場合に、排出枠内に収めた他の事業者から枠を購入する「排出量取引」、環境規制が緩い国からの輸入品に関税をかける「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」などがある。

臼井教授は、「排出量取引とCBAMを英国とEUで統一する流れが起きる可能性もある」と話した。EUは英国にCBAMを適用していない。それは、英国のカーボンプライシングの厳しさを評価しており、EUが懸念する「カーボンリーケージ」が起こらないと見ているためだ。カーボンリーケージとは、企業が厳しい環境規制を警戒し、環境規制の緩い国に生産拠点を移し、結果的に脱炭素が進まない状態を指す。

EUの排出量取引における排出枠の価格はトンあたり約1万1700円(25年当時のレートで計算)、英国は約8千円(同)だ。臼井教授は、「EUがグリーンディール政策の柱であるカーボンプライシングを徹底して進めようとする中で、排出量取引とCBAMで英国とEUがつながることになれば大きなインパクトだ」と話した。

排出量取引は排出枠の価格が上がるほど、脱炭素への投資に経済合理性が伴う政策だ。国際協調が崩壊しつつある中、「脱炭素」に向けて手を取り合うことの意義は大きい。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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