世界の化石燃料関連インフラ、20億人の健康脅かす: 報告書

記事のポイント


  1. 国際人権NGOと米大学が、化石燃料関連施設の人や生態系への影響をまとめた
  2. 世界170カ国に分散する18300以上の石油・ガス・石炭関連施設をマッピングした
  3. これら施設の5キロ圏内に住む20億人が、健康リスクにさらされていると言う

国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは11月12日、米コロラド大学の協力の下、化石燃料インフラが人の健康や生態系に与える影響をまとめた報告書を公開した。世界170カ国の18300以上の石油・ガス・石炭関連施設をマッピングし、5キロ圏内に住む20億人が健康リスクにさらされているとした。報告書が特に問題視したプロジェクトには、国際協力銀行や三菱商事、日本のメガバンクなども関与する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

世界の18300以上の石油・ガス・石炭関連施設は、
20億人の健康を脅かす

ブラジル・ベレンで開催されているCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)にあわせて、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは11月12日、化石燃料施設が人の健康や自然の生態系に与える影響を包括的にまとめた報告書を公開した。

アムネスティ・インターナショナルは、1961年に発足した世界最大の国際人権NGOで、1977年にはノーベル平和賞、1978年には国連人権賞を受賞した団体だ。

報告書「採掘と絶滅~化石燃料のライフサイクルが生命・自然・人権を脅かす理由~」は、米コロラド大学ボルダー校ベター・プラネット研究所(BPL)が実施した、世界中の石油・ガス・石炭関連施設のマッピング調査を基にした。

BPLは、化石燃料インフラ施設の既知の立地データと、各国の国勢調査データ、重要生態系の指標データセット、地球規模での日別排出量データ、先住民族の土地所有権データを重ね合わせ、化石燃料インフラに対する曝露の規模をマッピングした。

■「化石燃料時代を今すぐ終わらせよ」

「本報告書は、世界経済の『化石燃料からの脱却』が急務であることを各国・企業に示すさらなる証拠となる。気候危機が人権に及ぼす最悪の影響を緩和するために、化石燃料の時代は今すぐ終わらせなければならない」とアムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務局長は力を込めた。

化石燃料施設の近くでは、水資源や大気質の汚染、土地の劣化が、深刻な脅威となり、がんや呼吸器疾患、心臓病、早産など、近隣住民の健康リスクを高めていると指摘する。

このことは2025年9月、別のNGOクライメート・アンド・ヘルス・アライアンスが、化石燃料のライフサイクルの各段階での健康影響を分析した報告書「ゆりかごから墓場まで」も詳述する。

今回、アムネスティ・インターナショナルは、健康への脅威にとどまらず、化石燃料インフラでの事業活動が、代替不可能な自然のエコシステムを破壊していることについても詳しく分析した。

また米国で現在稼働中のすべての液化天然ガス(LNG)ターミナルが汚染に関する基準を違反していることも指摘した。

■世界人口の4分の1の健康に影響を与える

報告書によると、現在、170カ国で18300以上の石油・ガス・石炭関連施設が稼働しており、これら施設の5キロメートル圏内には、世界人口の4分の1に相当する20億人が住むという。そのうち5億2000万人が子どもだ。

化石燃料施設からの影響をより大きく受ける1キロメートル圏内の居住者数に絞ると、その数は4億6300万人に上り、そのうち子どもの数は1億2400万人と算定した。

カラマール事務局長は「これまで、化石燃料インフラの近隣住民の数について、世界的な推計は存在しなかった。BPLとの共同研究で、化石燃料のライフサイクル全体がもたらす膨大なリスクが明らかになった」と話す。

化石燃料由来の大気汚染や有害物質への曝露は、特に子どもの場合、白血病や呼吸器疾患、高血圧、および高血圧予備状態との関連性が高いことが指摘される。

妊婦と新生児にとっても、化石燃料由来の汚染への曝露や極端な暑熱が、早産や低出生体重、さらには生涯にわたる合併症リスクの増加に関連するとの指摘もある。

稼働中の施設に加えて、さらに3500カ所で、化石燃料関連施設が開発中または計画中であり、報告書は、これにより1億3500万人の健康が脅かされることになると分析した。

■化石燃料への曝露、不公正は根深く

なかでも、特に大きな影響を受けているのが先住民族だ。先住民族は世界人口の5%を占めるが、化石燃料インフラの16%以上が先住民族の居住地域に立地することも明らかにした。

「稼働中のプロジェクトの多くは、汚染のホットスポットを生み出し、近隣コミュニティの人々の健康や重要な生態系を『犠牲区域』と化している」と報告書は指摘する。

「犠牲区域」とは、低所得層や社会的弱者が汚染や毒素への曝露という不均衡な負担を強いられている、深刻な汚染地域を指す。

また、稼働中の石油・石炭・ガス施設の32%が、生物多様性に富み、炭素固定に不可欠な「重要な生態系」と重なっていることも明らかにした。

■問題の化石燃料プロジェクトには日本企業の関与も

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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