JTBが高松で飲食店、地域の未利用魚をレトルトカレーに

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記事のポイント


  1. 国内旅行最大手JTBは高松市で飲食店を運営している
  2. 瀬戸内海で獲った未利用魚を使ったレトルトカレーなどを提供
  3. 地域の課題を「交流」で解決を図る同社の戦略とは

国内旅行最大手のJTBは高松市で飲食店を運営している。瀬戸内海で獲った未利用魚を使ったレトルトカレーなどを提供し、地域の新たな魅力として打ち出す。なぜJTBが市場で飲食店を開くに至ったのか。同社の山田裕木・高松支店観光開発プロデューサーに聞いた。(聞き手・オルタナ輪番編集長=池田真隆)

JTBの「クセモノズ サステナブルラウンジ」はサステナブル★セレクション三つ星に輝いた。写真左からJTBの山田氏と審査委員を務めた古原徹・アサヒユウアス たのしさユニットリーダー=2025年10月3日、都内会場で

※JTBの「クセモノズ サステナブルラウンジ」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2025」の三つ星に選ばれました。
「サステナブル★セレクション」とは、サステナブル(持続可能)な理念と手法で開発された製品・サービスを選定し推奨する仕組みです。

一つ星(★)は、製品・サービスが、持続可能な社会づくりに貢献していることを表します。
二つ星(★★)は、★に加え、企業・組織がサステナブル経営に取り組んでいることを表します。
三つ星(★★★)は、★★の中から特に大きな社会的インパクトを生み出していることを表します。
サステナブル★セレクション公式ページはこちら

――「クセモノズ サステナブルラウンジ」を立ち上げた経緯を教えてください。

もともとJTBは旅行会社ですが、高松市中央卸売市場が漁港から観光交流拠点へと再整備される大きなプロジェクトがありました。JTBとしても、単なる受託ではなく、観光拠点づくりのプレイヤーとして関わりたいという思いがあり、高松市と包括連携協定を結びました。

市場に出入りする中で、将来の華やかなビジョン以上に、今の漁業現場が抱える課題の深刻さを漁師さんから直接聞くようになり、「今を救わなければ未来はない」と強く感じたのが出発点です。

JTBが高松で開いた飲食店「クセモノズ サステナブルラウンジ」

――具体的には、どのような課題があったのでしょうか。

魚が思うように獲れなくなっていることに加え、海水温の上昇によって魚種が変わり、本来狙っていない魚が多く獲れてしまう状況が起きています。

これらは「未利用魚」と呼ばれ、手間がかかるうえに値がつかない。結果として、漁師さんの負担だけが増えている現実がありました。この課題に向き合わずして、観光だけを語ることはできないと感じました。

「最終的には背中を押してもらった」

――この事業は、山田さんが発起人と伺っていますが、社内の反応はどうでしたか。

高松全体の再開発は行政が主体ですが、「クセモノズ サステナブルラウンジ」に関しては、JTBが主体で運営しています。JTBの支店が直営で飲食店をやるのも初めてですし、社内でもかなりチャレンジングな案件だったとは思います。

正直不安な気持ちでいっぱいでしたが、JTBは挑戦を応援する風土があり、最終的には背中を押してもらうようなかたちでスタートしました。

未利用魚を使ったレトルトカレーを開発。地域の課題を「魅力」に変える

――なぜ飲食店という形を選んだのですか。

決して飲食店をやりたかったわけではありません。ただ、未利用魚も「新たな観光資源」として捉え、新しい食のスタイルとして発信するためには、自らやるのが一番正確に伝わると思ったからです。

今回は、飲食店という形で直接お客様に触れてもらうことが、未利用魚の価値を伝える上で最も効果的だと判断しました。

――漁師との関係づくりは、簡単ではなかったのでは。

最初は相当警戒されたと思っています。「JTBが来て何をしてくれるのか」と。なので、説明よりも行動を重視しました。

実際に課題解決に貢献する姿を見せることで、徐々に理解を得ていきました。今では一緒に事業を行える仲間も増えてきましたが、まだ全員の声を拾えているわけではありません。

しかし、この取り組みを通じて、地域の方々との「交流」が深まっていることを実感しています。

地域の未来を共につくるパートナーへ

――関係性の変化を感じる瞬間はありますか。

最近では、魚を売るだけでなく、漁業体験や底引き網の様子を観光客に見せるといった発想が、漁師さん側からも出てくるようになりました。

「JTBが来て何をしてくれるんや」という段階から、少しずつ歩み寄ってもらえていると感じています。これは、JTBが単なる旅行会社ではなく、地域の未来を共につくるパートナーとして認識され始めた証だと考えています。

レトルトカレーの開発にあたり、地域の子どもも巻き込む

――体験型ツーリズムも進んでいるそうですね。

現在はモニターツアーとして実施しており、今後は日常的に受け入れられる形を目指しています。

魚を「モノ」として売るだけでなく、背景や営みごと伝えることで、価値が生まれると考えています。地域の文化や暮らしを体験してもらうことで、より深い感動と交流を生み出すことを目指しています。

――社内外からの評価は変わりましたか。

業界団体のサステナ関連アワードもいただいたことで、見方はかなり変わりました。ただ、賞そのものより、「本気でやり続けている」ことが評価されたのだと思っています。

この事業が、地域課題解決に資する交流創造事業の好事例として、社内外から注目されるようになったことは、大きな励みになっています。

「社会課題のその先に生業がある」

――山田さんが大切にしている考え方を教えてください。

「社会課題のその先に生業がある」という言葉を大切にしています。地域と地域、人と人をつなぐことで価値が生まれる。その結果として、観光が地域経済に還元される形をつくることが、JTBの存在意義だと思っています。

――今後、この事業をどのように育てていきたいですか。

正直、一店舗で海の環境が劇的に変わるとも思っていない。

ただ、この取り組みを通じて、地域の人たちが自分の暮らすエリアで抱える課題を前向きに捉え、動き始める。その小さなムーブメントこそが、一番の価値だと考えています。

将来はこのムーブメントを全国に広げ、持続可能な地域社会の実現に貢献していきたいです。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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