■雑誌オルタナ85号:欧州CSR最前線
欧州のCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、企業に対し、自社だけでなく子会社、取引先を含むバリューチェーン全体における人権・環境リスクの特定、防止、軽減、是正を求める制度である。2024年7月に発効した同指令は、強制労働、児童労働、環境汚染などを企業の経営管理に組み込むことを求めてきた。しかし2025年以降、EUでは競争力強化と企業負担軽減を目的とした「Omnibus」簡素化が進み、CSDDDも大きく見直された。
前回3月号でお伝えした通り、当時の焦点は「Stop-the-clock」による適用時期の後ろ倒しと、対象・義務を再設計する簡素化議論であった。その後の進捗として、2026年2月24日、EU理事会はCSDDDとCSRDの簡素化に最終承認を与えた。CSDDDの対象は、従業員5,000人超、純売上高15億ユーロ超の企業へと絞り込まれ、対応範囲も深刻な負の影響が起こりやすい領域に重点化された。企業の遵守開始は2029年7月へと後ろ倒しされ、気候移行計画の採択義務やEU共通の民事責任制度も削除された。
この動きだけを見れば、CSDDDは「後退」したように映る。確かに対象企業の縮小や義務の簡素化は、とりわけ中小企業への過剰な情報要求や監査負担を軽減する効果を持つ。一方で、制度が簡素化されたからといって、人権・環境リスクそのものが消えるわけではない。むしろ、形式的な網羅対応から、重大なリスクを見極め、優先順位をつけ、実際の改善につなげる力が問われる局面に入ったと見るべきである。

