記事のポイント
- 国際司法裁判所は1年前、国家の気候変動対策義務について勧告的意見を出した
- この影響は、各国の公的金融や気候訴訟、国際交渉の現場にも及び始めている
- 国際NGOが歴史的勧告から1年を記念して開催したウェビナーの内容を紹介する
オランダ・ハーグにある国際司法裁判所(ICJ)は約1年前の2025年7月23日、気候変動に関する国家の義務について勧告的意見を発表した。この歴史的な勧告的意見から1年を記念し、国家の気候政策に対する説明責任や各国の公的ファイナンス、気候訴訟や国際交渉の現場に、この勧告的意見がどのように影響をし始めているのか、国際NGOが「法的責任を、化石燃料からの脱却へ」と題するウェビナーを開いた。その内容を一部紹介する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

写真は、議長を務めたICJの岩沢雄司所長。
(c) The International Court of Justice (ICJ)
■国連総会も賛成多数でICJ勧告を支持した
ICJは2025年7月23日、全会一致で、「国際法のもとで、世界各国は温室効果ガスの排出削減などの気候変動対策を取る法的義務を負う」とする歴史的な勧告的意見を出した。
勧告的意見に拘束力はない。だが、法的、道徳的に大きな権威を備えた国際司法裁判所の意見は、「1.5℃目標」の達成に向けた各国の最大限の努力と、企業の排出を規制する国家の義務、さらに「健康な環境への権利」や将来世代への配慮の義務などを明確にした。
2026年5月20日には国連総会が、ICJの勧告的意見に支持を表明する決議を、賛成141票、反対8票、棄権28票の賛成多数で可決した。反対票を投じたのは、ベラルーシ、イラン、イスラエル、リベリア、ロシア、サウジアラビア、米国、イエメンだ。日本は賛成した。
こうしたICJによる勧告的意見や、国連総会での決議に向けて外交的リーダーシップを発揮したのが太平洋島しょ国のバヌアツだ。そしてそのバヌアツ政府を突き動かしたのが、若者団体「気候変動と闘う太平洋島しょ国の学生たち(PISFCC: Pacific Island Students Fighting Climate Change)」だ。
国際NGOのSFOC(ソリューション・フォー・アワ・クライメート、本部・韓国)が2026年7月24日に開催した1周年記念ウェビナーでは冒頭、そのPISFCCのビシャル・プラサド・ダイレクターが、ICJの勧告の中でも、特に重要なポイントを説明した。
■「パリ協定は最低限の基準であって、上限ではない」
「国家が、化石燃料の拡張を『自国の経済政策』だとして言い逃れることができた時代は終わった」とプラサド氏は力を込めた。「ICJの勧告によって、各国は、1.5℃目標に適合しているかどうかを自ら説明せざるを得なくなったからだ」とその歴史的意義を力説した。

プラサド氏は、ICJの勧告の重要なポイントを4つ挙げた。
「一つは、国家の気候変動に対する義務が、パリ協定だけで終始するものではないとICJが判断したことだ。気候関連条約だけでなく、慣習国際法、国際人権法、国連海洋法条約に基づき、並行的に国家の義務が生じる。これは決定的な意味を持つ」
「国家は、不十分なNDC(温室効果ガス排出削減目標)を提示しながら、自らの義務を果たしたと主張することはできないということだ。パリ協定は最低限の基準(フロア)であって、上限(シーリング)ではない」
「二つ目は、厳格なデューデリジェンスとして、利用可能な最善の科学および「1.5℃目標」を基準として適用したことだ。つまり、国家の行動は、政治的に自国に都合が良いかどうかではなく、科学が求める目標に照らして測られる」
「そして第三に、ICJはこうした義務が、国際社会全体に対して負う『対世的義務』であることを確認した。言い換えれば、直接的な被害を受けたことを証明できる国だけでなく、どの国でも、違反している国の責任を追及することができるということだ」
「違反と確定した場合、ICJは、国家責任の通常の結果が伴うとした。つまり、違法行為の停止、再発防止の保証、そして完全な賠償が求められる」
■「化石燃料を拡張する『補助金』も違法行為」
プラサド氏は、今後の気候変動の議論において最も重要な役割を果たすであるICJ勧告のパラグラフを解説した。具体的には直接、化石燃料に言及した「パラグラフ420/427」を指す。
「ICJは、化石燃料の生産、消費、探査ライセンスの付与、あるいは化石燃料補助金の支給などで、温室効果ガスの排出から気候システムを保護するための適切な措置を国家が怠ることは、当該国家に帰せられる国際違法行為となる可能性がある、としている」(プラサド氏)
「特に補助金についての言及は重要だ。国家の財政的決定そのものが国際違法行為になり得ることを示している」(同)
■ICJ勧告は「気候訴訟の発展に向けた法的基盤を強化した」
■日本の金融機関も、多数の化石燃料プロジェクトに融資する
■COP31へ向けて「議論の枠組みは変わった」

