記事のポイント
- 気候変動に悪影響を及ぼす業種への「広告規制」が強化されだした
- オランダでは2024年に世界初となる食肉業向けの広告規制を施行する予定
- 国内の広告規制は弱いが、グローバル展開する企業は先んじた対応が迫られる
タバコやアルコールは健康に悪影響を及ぼすとして、広告活動に規制が設けられてきた。最近では、気候変動への悪影響を理由に、広告から締め出される業種も出始めた。化石燃料を扱う企業が中心だが、オランダでは食肉業向けに広告規制が設けられる予定だ。これについては賛否も出ているが、どこからがNGなのかという線引きも時代とともに変わっていく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

■オランダで世界初となる食肉の広告禁止令
オランダのハールレム市は、世界で初めて食肉関連の広告の禁止令を採択した。施行は、早ければ2024年の予定だ。
なぜ食肉なのか。実は畜産業が気候変動に与える影響は大きい。たとえば牛のゲップはメタンを多く含み、地球温暖化の一因とされている。全世界で温室効果ガスの約5%が家畜によって生み出されているともいわれており、その影響は決して無視できない。
ハールレム市では、禁止令によって、市内のバス停など公共の場で、肉に関する広告を禁止する。スーパーマーケットで販売されている肉類はもちろん、ファストフードの肉メニューまで対象だ。持続可能な方法でつくられた食肉製品については未定となっている。
食肉関係者を中心に、行き過ぎだという批判や表現の自由への懸念など否定的な意見も多い。肉を食べる習慣を多くの人がもっているオランダで禁止令が執行された後、どのような変化が起きるのか注目される。
■「広告お断り」はさまざまな業界に波及
オランダのアムステルダム市では、石油・天然ガスを取り扱う企業に加え、安価な航空券やガソリン車なども対象に、市内の地下鉄駅での製品・サービスの広告を禁止すると発表した。
フランスでも石油、石炭、天然ガス関連企業の広告を全面的に禁止することが表明されている。このような行政レベルでの取り組みに加えて、メディアや広告業界での自主規制も進んでいる。
毛皮の記事や広告を掲載しないと発表したのは、フランスのファッション雑誌「ELLE」。動物愛護団体や世論の毛皮反対の声や、若い世代の毛皮離れを受けて、あらたに方針を打ち出した。
今まで仕事を受注していた広告業界からも、NOの声をあげる動きが活発になってきている。化石燃料を扱う企業や団体の仕事を受けないというプロジェクトが始まった。数多くのクリエイターや広告代理店が賛同し、アクションを起こしている。
化石燃料を扱う企業をイメージアップさせることは、気候変動の目標達成を遠ざけてしまう。そして自らの業界は、イメージダウンしてしまうという危機感が背景にある。
責任を問われるのは企業だけに留まらず、広告を掲載するメディアや制作に携わる広告業界にも及んでいるということは特筆すべき事象だ。
日本では、海外のような強い広告の規制は現状ない。しかし、グローバルに展開する企業などは、先んじて対応を迫られることになるだろう。
企業はもちろん、仕事を受注する広告会社側も業界としてこの課題に取り組み、日本の事情に適したルールをつくっていくことが求められるのではないだろうか。