イノベーション戦略としてのCSR 経営、欧州を例に【戦略経営としてのCSR】

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大久保 和孝(新日本有限責任監査法人CSR 推進部長)

CSRの第一人者であるジョン・エルキントン氏( トリプルボトムラインの提唱者)は、企業を取り巻く経営環境は、2050 年に向けた人口爆発が社会的な変革を促す大きなドライバーになると指摘している。また、環境リスクの向上だけでなく、グローバル化や、経済成長の鈍化により社会の価値観がより複雑になることも重要な変革ドライバーとの認識を示している。そして、持続可能性に取り組もうとする企業経営者の志向のギャップよりも変革のギャップの方が大きくなることを懸念し、課題への対応が急務であると指摘している。

この社会変革に企業が打ち勝つには、3つのステップが不可欠だ。まず、社内の既得権益や既存の概念を打破すること。次に、変化を日常的に受け入れる体質を作ること。そして、ブレークスルーするきっかけを作り出すこと。これらは、ソーシャルイノベーション戦略を推進する上での課題でもある。

例えば、ヒューレット・パッカードは、発想を転換するきっかけとして、作りたい製品を作るのではなく、どのような新しい製品やサービスの創造が社会を助けるのか、という観点からの開発推進に取り組んだ。

アリアンツでは、社員をひきつけ、取り込み、やる気を起こさせるインスピレーションを与えることを目的にCSR 活動を推進した。当初、社会貢献の一環として社員に幼稚園のペンキ塗りをさせたところ、あまりにも下手で全てやり直すことになった。この苦い経験から、本業に則したスキルを有効に活用すべきとの考えに至った。そして本業であるプロジェクトマネージメントの優位性を、社会問題への取り組みに活かすことで、本質的な問題の解決ができ、組織をより強固なものにすることができた。これらの活動を通して、従業員の環境や社会に対する意識が高まり、自分の仕事を通じて如何に社会貢献できるかを日頃から考えるように変化した。

CSRの概念は、ソーシャルイノベーション戦略の一環としての位置づけに進化している。社会問題への対応は、これまでCSR 部などが本来の業務とは別個の部署として対応してきたが、コアビジネスを通じた活動を行うことで、より体系だった対応へと大きく変化している。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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