社員が新興国のNPOと社会課題を解決する「留職」で会社を変える

原田 2011年3月に起業に向けて会社を退職。東日本大震災もあり、松島由佳さんとふたりでクロスフィールズを創業してからも、軌道に乗せるまでには苦労も多かったと想像します。第1号案件は「仕事を通じて途上国の社会的課題を解決したい」という意識を強く持っていたパナソニック社員のベトナムへの留職でしたね。企業に働きかける際のセールスポイントですが、どう説明していますか。

小沼 留職の効果については、
(1)リーダー育成(新興国でゼロから何かを作り上げる経験を通しグローバルな視点を持つリーダーを育てる)
(2)現地理解(途上国の人と同じ目線で活動することにより、現地の社会・文化を理解し、新しいアイデアを生み出す。何が必要とされているかを肌で感じることができる)
(3)組織の活性化(本業を通して現地社会に貢献した社員が、その実績、熱い思いを企業に持ち帰ることで職場を活性化する)――と説明しています。

原田 これまでに20社、約70人が、インドネシア、インド、ベトナム、カンボジア、ラオスなどの8カ国に派遣されました。最新の事例を紹介してください。

小沼 ハウス食品グループ本社で研究職を務めて10年になる渡邉さんは、インドネシアの農村を支援するNGOに派遣されました。任務は、現地の作物を使った新しい製品開発です。

グアバの葉を使った加工品の商品開発に取り組むハウス食品グループ本社の渡邉さん(提供:ハウス食品グループ本社)
グアバの葉を使った加工品の商品開発に取り組むハウス食品グループ本社の渡邉さん(提供:ハウス食品グループ本社)

正解のない厳しい仕事で、スパイスの研究をしてきた今までの日本でのやり方も通用しません。悩みに悩んだ渡邉さん、プレッシャーもあったのか、ついにお腹を壊して寝込んでしまいます。ところが、これがけがの功名。ひとつの可能性を生むのですから人生わかりません。

心配した現地の人がお見舞いに果物のグアバを持って来てくれました。「グアバの葉を噛むとお腹にいいよ」。ピンときた渡邉さん、そうだ、付加価値の高いグアバの加工品を作ろうと思いたち、ついにグアバ茶とグアバのドレッシングの開発に成功したのです。

原田 なるほど、普段捨てていたグアバの葉を使ったお茶とは、考えましたね。困難を乗り越えての成功ですから、うれしかったでしょう。

小沼 現地の人が必要としているものを開発できたということで、働くことの意味について考えさせられたと話していたのが印象的です。皆が喜んでくれたことで、自分が何のために働くのか実感できたようです。もともとシャイな人ですが、帰国してからの社内でのプレゼンも堂々としていて頼もしかったですよ。

■人生を変えた4カ月

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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