奈良県がスイス林業を取り入れる理由

奈良県は、今年6月にスイスからフォレスターを招いて「欧州型森林管理者研修」を実施した。招かれたのはチューリヒ州で約900ヘクタールの森林を管理するロルフ・シュトリッカー氏。彼は、地元でも環境重視のフォレスターとして有名だ。

林業改革のヒントを求めてヨーロッパのフォレスターを招くケースは多いが、たいていドイツから。スイスは珍しい。

ドイツの林業はシステマティックで、また産業的にも成功している。参考になる点は少なくない。しかし、大規模化と機械化によって木材生産量と効率を高めた林業は、必ずしも日本の現状とは合わないように思う。

とくに奈良県が擁する吉野林業は、スギやヒノキを手間隙かけて樹齢100年以上に育ててきた。なかには200年を越える森もある。そして木目や木肌など高品質な木材を生産してきたのだ。

しかし、近年はそんな高品質材が必ずしも高く売れなくなった。また地形が険しく、機械化も進んでいない。そのため地元でも閉塞感が強まっている。

そこで目をつけたのがスイス林業だ。スイスでは、急峻な土地で比較的小規模な林業を展開し、高品質材の生産に力を注いでいる。量より質の林業で、吉野とシンクロする点が多いのだ。

atsuotanaka

田中 淳夫(森林ジャーナリスト)

森林ジャーナリスト。1959年生まれ。主に森林・林業・山村をテーマに執筆活動を続ける。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)『鹿と日本人』(築地書館)『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(ともに新泉社)『獣害列島』(イースト新書)などがある。

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