企業報告はどこへ行くのか

Image credit:Ken Teegardin

【財務資本に結びつかない価値編】

日本でも企業の戦略や業績などの「財務報告」と、ESGやCSRなどの「非財務報告」が一体となって企業の価値を表現する「統合報告」の発行が年々増えています。この動きを黎明期から現場で見守ってきた私からすると、やっと事業活動も社会や環境に配慮して資本主義も修正されていくのかと期待に胸を膨らませたものです。ですが、昨今の国内の統合報告の趨勢を見ている中で、なんだか微妙に違和感を覚える部分もあります。私自身、まだ答えのない旅の途中ですが、ひとつの見方として参考になれば幸いです。(中畑 陽一)

財務資本に結びつかない情報は不要か

最近特に感じているのは、統合報告が投資家向けの、資本市場のための開示という側面が強くなっている(なり過ぎている)ことです。IIRCのフレームワークに「財務資本提供者」を主軸に据えた報告が第一義とされていることや、日本の投資家向け企業情報開示に関する各種アワードにおける統合報告(非財務情報開示)評価が進んでいること、これにESG投資の拡大が相まって「投資家向けの開示」の側面が強くなっているからかもしれません。

市場がESG要因を包摂しつつあるという点では喜ばしいことですが、気になるのは、非財務情報であれ、何であれ、キャッシュ・フロー(現金)につながる情報こそマテリアル(重要)であり、それ以外は無用の長物(よくわからない得体のしれない情報→意味がない情報)だから短くまとめよ、という意見が散見されることです。CSRの世界でも、CSR戦略や、CSVといった概念が広がる中で、事業に寄与しない、あるいは関連性の低い社会貢献活動は良くない、マテリアル(重要)でないという考え方があります。

確かに投資家からすれば、株価上昇や配当につながる活動こそが重要であり、非財務情報と財務情報のつながりが知りたい、それ以外は不要な情報という考えも理解できます。しかし、それでは測定できない活動、お金につながらない活動は企業が取り組むべきではないのでしょうか。そして、報告する意味がないものでしょうか。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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