三重大学の名誉教授「原発は長期的には持続不可能」

「電力安定供給へ再稼働を 原発、中電専務ら必要性訴え 三重大学生9割『賛同』」と報じた伊勢新聞の記事(12月20日付け)に対して、取材対象の講義をした三重大学の教員が「私自身は、長期的な視点から見れば、原発は持続不可能と考えている」とオルタナ編集部の取材に答えた。(オルタナ編集部=沖本啓一)

授業を開いたのは三重大学経営学部の渡邊明・名誉教授。伊勢新聞の記事は、同名誉教授の講義で「原発再稼働が必要不可欠」と結論付けたかのような印象だった。

■「講義は原発再稼働を促すものではなかった」

伊勢新聞の記事によると、取材当日、同名誉教授が講義の一環としてパネルディスカッションを開き、中部電力の渡邊広志専務執行役員、同大の鶴岡信治副学長、愛知県の鋳物生産会社の社長、伊勢新聞社の小林千三社長が登壇した。

渡邊専務は「発電の多くを原油に頼る中、中東で何か起これば大停電が起こるのではと危惧している」と述べ、原発再稼働の必要性を強調。「多様な発電方法を組み合わせて電力の安定供給を保たなければならない」と訴えた(同新聞の記事)。

その後の学生に対するアンケートでは、参加した学生のうち86%の25人が「原発再稼働に賛同できる」と回答したという。渡邊名誉教授は、オルタナ編集部の取材に対して、次のように答えた。

「講義は日本のエネルギー問題をテーマにしており、エネルギーミックスが上手く進まなかった場合にどのような問題が起こり、どう対処するべきかを考えることが主眼だった」
「内容はニュートラルであり、原発再稼働を促すものではない」
「学生の86%が再稼働に賛同したというアンケート結果は、工学院生を対象に、無記名で、このような話の流れで行ったアンケートだったので、偏りが出た。人文系の学生が対象なら結果も違ったはずだ」

渡邊名誉教授は、2030年に向けた日本のCO2排出量削減への取り組みの中で起こりうるエネルギーミックスの問題について解決策を模索しているという。

エネルギーミックスとは、電力供給の安定化を図るために火力、水力、太陽光(再生可能エネルギー)、原子力など多様なエネルギー源を組み合わせて電源を構成することだ。渡邊名誉教授によると、2030年に向けた「日本の約束草案」で提示されるCO2削減量を実現しつつ、電力を安定供給するための選択肢の一つとして、講義の中で原発が話題に上がったという。

しかし渡邊名誉教授自身は「長期的な視点で見れば原発は持続不可能なものだと考えている」といい、「日本の約束草案」から見れば短期的には原発をなくすことはできないが、長期的に見れば原発はベストな選択ではないと考えているという。

■原発に頼らないエネルギーミックスとは

2030年までにエネルギーミックスが上手く進まなかった場合には、電気料金の大幅な値上げも考えられる。その中で、現状の国内の再生可能エネルギーには課題が山積みだ。

数値上だけを考えれば、原発に頼らざるを得ないと思ってしまう人も多いだろう。しかし、渡邊名誉教授は「技術のイノベーションによって乗り越えられる課題だ」と話す。

例えば、現在では発電の不安定さが指摘されている太陽光発電だ。電気自動車の普及に伴ってVPP(バーチャルパワープラント)の技術による安定化が進むことが見込まれる。蓄電池そのものの性能向上も今後改善の余地が大きいだろう。

渡邊名誉教授は「近い将来、必ず技術のブレイクスルーが起こる。原発に頼らないエネルギーミックスは、2030年までに実現する可能性が高いと考えている。院生など若い世代もそのように考えている人が多いと実感しており、期待を寄せている」と語った。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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