東京五輪、パーム油調達基準が抱えるリスクと課題

さて、不十分とはいえ、上記の基準があるにもかかわらず、非認証油の利用も認めている点も大きな問題です。現在のパーム油の基準案では、非認証油を混入して利用することも可能なので、最終的に調達されたパーム油は基準を満たしていなくても問題になりません。

調達基準案の項目3(2)と(3)では、「上記(1)の認証パーム油については、流通の各段階で受け渡しが正しく行われるよう適切な流通管理が確保されている必要がある」とあります。この文言だけ読むとわかりませんが、これは認証されていない油を混ぜることを認めている「マス・バランス方式」も利用可能であるという提案です。

さらには、「上記(1)の認証パーム油の確保が難しい場合には、生産現場の改善に資するものとして、これらの認証に基づき、使用するパーム油量に相当するクレジットを購入する方法も活用できることとする」とあり、結果として「持続可能性に配慮した調達コード」の規定を満たさないことが可能となってしまいます。

「これらの認証」とは、ISPO、MSPO、そしてRSPOを指していますが、つまり、認証制度を取得した農園生産において、基準を満たしたものを”後押し”ていれば、実際に調達しているパーム油自体は基準はクリアしていなくてもいいということです。

■サプライヤー企業の責任

さて、今回の基準案で評価できる点もあります。項目6で「サプライヤーは、トレーサビリティ確保の観点も含め、可能な範囲で使用されるパーム油の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、上記2を満たさないパーム油を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用することが推奨される」との規定が行われている点です。

この規定は、たとえ認証が得られていても、調達先の農園だけでなく、同じパーム油生産事業者の別の農園で基準を満たさない事例がある場合にも対応を検討すべきことが明記されています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、製品レベルでの調達先の評価に限らず、企業レベルでの評価により、持続可能性のリスク管理を行うことを求めてきたので、これは評価できる点です。

■東京2020大会は持続可能性に対する責任を

パーム油の基準案は、全体的な「持続可能性に配慮した調達コード」を満たしていないと考えられる認証制度の活用を認め、さらに非認証油も混入できることとなってしまったことから、大きな課題とリスクを抱えている状況にあります。

これでは、東京オリンピック・パラリンピック大会が持続可能性に対する責任を果たしているとは言い難い状況ではないでしょうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #パーム油

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