日本の知見生かし、アフリカで衛生向上

戦後の日本で日本初の薬用手洗い石けん液と石けん液容器を開発し、衛生環境の向上に貢献してきたサラヤ。2010年にはウガンダで「100万人の手洗いプロジェクト」を開始するなど、活躍の場をアフリカにも広げ、事業を通じた社会課題の解決に挑戦している。 (オルタナ副編集長=吉田広子)

ウガンダ共和国ベティ・グレイス・アケチ・オ
クロ閣下(左)と更家悠介社長

11月5日、「関西・アフリカナイト」が開かれ、ウガンダ、エチオピア、コンゴ、タンザニアの各国大使や名誉領事、外務省職員、関西の経営者など約300人で賑わった。関西・アフリカナイトは、サラヤの更家悠介社長が「在大阪ウガンダ共和国名誉領事」に就任し、サラヤ本町ビル内に在大阪名誉領事館(大阪市)を開設したことを記念して開かれた。

ウガンダ共和国特命全権大使ベティ・グレイス・アケチ・オクロ閣下は、「サラヤは長年ウガンダの衛生環境向上に尽力してくれている。そのおかげで手洗いが習慣化してきた」と、その功績を称える。

手洗いで命を救いたい

サラヤがウガンダで「100万人の手洗いプロジェクト」を開始したのは、2010年1月。衛生製品の出荷額の1%をユニセフに寄付し、ウガンダで手洗いに関する教育・普及を行う取り組みだ。

世界の5歳未満児死亡数は年間530万人(2018年)に上り、その半数はウガンダを含むサブサハラで起きている。2大死亡要因は下痢と肺炎で、本来予防可能な感染症だ。

「世界にはまだまだ手を洗うだけで救える命がある。当社は戦後の日本で蔓延していた伝染病の感染対策として薬用石けん液を開発したが、その技術や知見をアフリカでも生かせるのではないかと考えた」(サラヤ広報宣伝統括部の廣岡竜也統括部長)

プロジェクトを進めるなかで、一般市民はもちろん、医療機関でさえ、充分な衛生環境にないことも知った。そこで2012年に「病院で手の消毒100%プロジェクト」を立ち上げ、医療従事者向けに院内感染を防ぐための啓発活動を開始した。

だが、意識の低い中で、アルコールによる手指消毒の有効性などを理解してもらうのは容易ではない。「言葉で訴えるより、効果を実感してもらった方が定着する」(廣岡部長)と考え、データを集め、数値で効果を見せた。院内での手指消毒の実施率が70%まで上がると、新生児の下痢性疾患や帝王切開後の敗血症がゼロになる月が記録され始めた。

だが、日本から消毒剤を輸入していては高価になって継続使用は難しい。そこで、消毒剤の現地製造に着手。「『施し』ではなく、『機会』を提供する会社でありたい」と、雇用を生み出すとともに、現地の医療機関が購入しやすい価格を実現し、普及に成功した。

食品衛生や治療薬開発も

2018年からはウガンダからアフリカ諸国に活動の場を広げている。ウガンダの隣国ケニアで取り組むのは、食品衛生だ。アフリカ大陸の東海岸に位置するケニアでは、魚介類が豊富に獲れる。一方で、衛生的なコールドチェーンが確立されておらず、傷んだ魚介類が食品ロスになるという課題もあった。当然、収入にも影響する。

そこで2018年10月、衛生的な食品加工のモデル店として日本料理店「やま仙」をウガンダの首都カンパラにオープンした。食材の洗浄や殺菌に使える微酸性電解水生成装置ピュアスターや食品の鮮度を落とさず冷凍保存ができる急速凍結機ラピッドフリーザーなどを導入し、ケニア産魚介類を刺身として提供できるほど衛生的な環境を整えた。

砂漠の緑化につながるホホバの植樹活動(右)と砂漠で育つホホバの実(右)

エジプトでは、大阪大学との産学協同で、砂漠で生育できる植物「ホホバ」の苗を育て、砂漠を緑化する活動を行う。2020年春には、そのホホバオイルを使用した新ボディケアブランド「Jojoble(ジョジョブル)」が誕生する予定だ。この商品も売り上げの一部を緑化へと循環させる。

チュニジアでは、精油開発に取り組み、ネロリやゼラニウムなどの精油やフローラルウォーターなどを製造販売している。

2019年からは「スナノミ症」治療薬の開発に着手。スナノミとは、ノミの一種で、人や動物の足に寄生し、卵を産み付けて孵化することで皮膚を壊死させる。進行すると歩行困難や最悪の場合死に至る感染症だ。

ケニアには約140万人の患者がおり、その6割は子どもたちだという。現在サラヤは治療薬の開発を進め、ケニアやウガンダで効果検証を行っている。

更家社長は関西・アフリカナイトで「貧しくても最低限のヘルスケアにアクセスできる『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ』が重要だ。日本のノウハウを生かしながら、日本全体としてどのように取り組めるのか考えていきたい」と力を込めた。事業を通じて社会課題を解決するサラヤの挑戦は続く。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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