原田勝広の視点焦点:脱「お笑い」被災地で奮闘9年

原田勝広
オルタナ論説委員

その夜、帰宅して、薬局づくりの話を妻にすると、「馬鹿な事を考えないで」と怒られてしまいました。当然のことでしょう。ところが、翌朝、目を覚ますと、テーブルの上に、通帳と印鑑が黙って置いてあったそうです。子どもが大きくなったことから、そろそろマイホームを建てようかと貯めてあったお金でした。現代版「山内一豊の妻」といったところでしょうか。

2011年8月に開設したこの陸前高田の第1号薬局が根城になり、ボランティアが150人ほど集まってきました。看護師、療法士などの人たちで、マッサージ、足湯、ラジオ体操も実施しました。富山さんのネットワーク力ですね。当初はNPO法人として活動していましたが、「慈善でいいことをしています」では事業が続かないと判断した富山さんは㈱ロッツ(Lots)を立ち上げました。Liberate your Own Talentsの略で「参加者みなに自分の才能を解放してもらいたい」という思いを込めて、そう命名したのです。全員の力を結集して事業を黒字にしないと活動は継続できないのです。

薬局が動き出すと、震災前から現地に存在した少子高齢化、過疎ゆえの医師、医療施設不足を目のあたりにすることになりました。

体調が悪くても、身動きできないため病院に通えない高齢者が多いのです。そこで、東日本大震災復興特別区第1号で理学療法士、作業療法士などリハビリの専門家が単独で活動できる日本初の「単独型訪問リハビリステーションさんぽ」をスタートさせました。仮設住宅などでの在宅リハビリが可能になり、高齢者は大喜びしたようです。

立てなくて病院へ行けなかった人たちが、まずは家の中で手を動かすことができるようになる。少し立てる。動ける。外へ出たい。そうした人の社会復帰を富山さんは考えました。そこが彼のすごいところです。せっかく治っても、社会に復帰しないと元に戻ってしまうのです。場当たり的な処置をしないで、健康のサイクルがうまく回るようにする。縦割りの行政からは出てこない発想です。

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原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

2020年2月26日(水)9:00

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