書評『企業家に学ぶESG経営』(長谷川直哉編著)

バックキャスティング。目標実現のため何ができるか未来から現在に遡って考える。未来に向かって、現在できることを積み重ねるフォアキャスティングとは違う。現在と未来を結ぶタイムラインの反対側、つまり、現在や過去のある時点と、そのもっと前の過去を結ぶタイムラインに、バックキャスティング思考の成功体験があったのだ。この事例が本書に並ぶ。彼らがどのように歩み、成功(あるいは、失敗)したか。その裏にあるバックキャスティングの考えを示すことが、「史」としての本書の貢献だろう。

昔の傑士たちは、一念発起していた。それを突き動かす原体験は、成功と失敗の縦糸と私益と公益の横糸で織りなし物語を生み、社是・社訓としてその企業のDNAの一部となり時を超えていく。現代の、社会のため人のため何かしたい、とは一線を画す。国家や私の暮らしの豊かさへの渇望や、近代以前の精神に根差すもので、それは強烈で読み応えがある。だからこそ、本書は読み手を魅了する。

もちろん、そんなに肩肘を張らず気楽に読む、これもよい。あの企業はこういう歴史があったのか、こんな変遷をたどったのか等社史的な見方も面白い。伊藤博文や岩崎弥太郎と、この人やこの会社にはこんな縁があったのか等興味津々に。登場する人物、会社をくまなくGoogle検索して知識をどんどん増やしてもよいだろう。とにかく、いろいろな「史」の味わい方を教えてくれる一冊だ。

文・甲賀聖士 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

1990年明治学院大学国際学部卒。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科、早稲田大学大学院社会科学研究科に学ぶ。国際政治学修士。専門は平和研究・人間の安全保障研究。企業やそこで働く人々、女性もグローバル社会の重要なアクターと捉え、その行動が平和や社会的価値の創出に貢献する可能性を探る。主な論文に「平和の探求―平和の発展と浸透の視点から」、「性役割意識と社会貢献意識を結ぶ『媒介意識』の仮説検証 ―就労前の女子大学生における2つの意識の関係性分析―」等。日系企業で事業管理、安全保障輸出管理、J-SOX、CSR等にも従事。

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2020年4月1日(水)16:12

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