投資家はなぜESGに注目しているのか。
夫馬氏は「投資家も企業も、いままでの経営では『持続不可能』であるということを認識している。2020年からは『真に未曽有の時代』に入った。サステナブル(持続可能)であるために変化が求められ、長期的な視点でとらえるESGが重要視されている」と説明する。
日本で重要なESGトピックの一つが、人口減少だ。「いずれ大学入学者が減少する時代に突入する。教育機関も変わらなければ生き残っていけない」(夫馬氏)。
夫馬氏は「日本の大学基金は国債運用が中心で利回りが低い。必ずしも持続可能といえない状況だ」と指摘する。「基金運営でもサステナビリティにコミットしていくことが求められているのではないか」とし、2050年までにカーボンニュートラルを目指す米ハーバード大学の事例などを紹介した。
先進事例として登壇した千葉商科大学は、SDGs(持続可能な開発目標)推進の一環としてESG投資を推進している。投資額は10億円で、運用益は給付型奨学金の原資に充てるという。
学校運営でも気候変動対策を進める。同大学は2019年8月から使用する電力を再エネに切り替え、再エネ100%大学を実現した。同大学が保有するメガソーラー野田発電所で発電したFIT電気をみんな電力に特定卸供給し、みんな電力は独自のブロックチェーンP2P電力取引システムを用いて同大学に供給するという仕組みだ。
「技術系の大学ではないのに、なぜ商科大学で実現できたのか」。千葉商科大学の田中信一郎准教授はこうした質問をよく受けるという。
それに対し、田中准教授は「ビジネスの大学だからこそ実現できた」と強調する。同大学は省エネ機器のリース事業や再エネの電源開発などを行う子会社として「CUCエネルギー株式会社」を設立するなど、事業の枠組みを整えた。「学長、教職員、学生、CUCエネルギーの担当者らが、目標に向かって一体となっていることも成功要因の一つ」と続ける。
こうした一連の取り組みは、大学内外の注目を集めた。2018年の志願者数が8000人だったところ、2019年は1万2000人、2020年は1万3000人と日本一の伸び率を示したという。
田中准教授は「再エネ100%がすべての要因ではないが、好意的な露出が増えたことはみんな実感している。プロジェクトに参加する学生の意欲や主体性も年々高まり、教育の面でも大きな意味がある」と、ESG経営に取り組む意義を語った。