生命論パラダイムの経済原理が生まれてくる――田坂広志 オルタナティブ文明論 第8回

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田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)

 

第7回では、いま、資本主義の土台にある経済原理が、マネタリー経済(貨幣経済)とボランタリー経済(自発経済)が融合したハイブリッド経済(融合経済)へと移りつつあることを述べた。

そして、その経済原理のパラダイム転換による資本主義の進化は、不思議なことに、これまで日本型資本主義や日本型経営が大切にしてきた価値観へと向かっていくことを述べた。

では、いま、資本主義に起こりつつある経済原理のパラダイム転換は、この「貨幣経済」から「自発経済」への転換だけか。

そうではない。実は、いま、経済原理には、この第一のパラダイム転換だけでなく、さらに四つの転換が生じつつある。

では、第二のパラダイム転換は、何か。「操作主義経済」から「複雑系経済」へのパラダイム転換である。

すなわち、第3回で述べたように、インターネット革命によって、企業や市場や社会というシステムは、その内部での相互連関性が高まり、「複雑系」としての性質を強めていく。

そして、その結果、自己組織化や創発、生態系の形成、相互進化、バタフライ効果といった「生命的システム」としての性質を強めていく。

それは、言葉を換えれば、経済システムが、人間が自由に「操作」や「制御」できないシステムに変わっていくことを意味しているが、特に、この複雑系経済において問題となるのが、「バタフライ効果」である。

「北京で蝶々が羽ばたけば、ニューヨークでハリケーンが起こる」と喩えられるように、複雑系経済においては、システムの片隅のほんの小さなゆらぎが、システム全体の大変動を引き起こすことがある。

国の住宅産業におけるサブプライム・ローンの破綻という問題が、世界全体を経済危機に巻き込んだ事態は、まさに、このバタフライ効果の典型である。

しかし、こうした危機を前に、世界的な権威を持つ経済学者やエコノミストでさえ、有効な処方箋を示すことができず、世界全体が、こうしたバタフライ効果に翻弄されているのが現実である。

では、これは、何を意味しているのか。これまでの経済学が限界に突き当たっていることを意味している。

従来の経済学は、経済や市場のメカニズムを解明すれば、その知見を活用して、企業や人々を誘導し、経済や市場を望ましい方向へ操作し、制御していけるという発想に立っていた。その「操作主義経済」と呼ぶべきパラダイムが、壁に突き当たったということである。

特に、金融市場のメカニズムを利用して、デリバティブなどの特殊な金融商品を開発し、短期間に高収益を上げようとする「金融工学」と呼ばれるものは、まさに、その「操作主義」の象徴的なものであるが、それが、いま、生命的システムとしての市場によって手痛い報復をされているのである。

そもそも、企業や市場や社会を、あたかも機械的システムであると見なし、そのメカニズムを分析、解明することによって、それらを自由に設計し、構築し、操作し、制御し、管理しようとする発想は、「機械論パラダイム」と呼ばれるものであるが、これに対して、「複雑系経済」は、経済や市場を生命的システムであると考え、その自己組織化や創発を促し、経済生態系の相互進化を促していくものであり、「生命論パラダイム」と呼ばれるものに他ならない。

では、この「複雑系経済」の知見は、今回の世界経済危機に対して、いかなる処方箋を与えてくれるのか。

次回、そのことを語ろう。

*本記事は、2009年4月発行のオルタナ13号から転載しています。

Profile
たさか・ひろし 74年、東京大学卒業。81年、同大学院修了。工学博士。87年、米国バテル記念研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。取締役を務める。00年、多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。
tasaka@sophiabank.co.jp www.sophiabank.co.jp

2011年12月11日(日)8:30

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