「アンモニア火力発電のCMはグリーンウォッシュ」

記事のポイント


  1. 弁護士グループらがJAROに対し、発電会社JERAの広告中止を求める申立てを行った
  2. 「CO2を出さない火」と宣伝することは「グリーンウォッシュ」だとした
  3. アンモニア混焼は、CO2やPM2.5を排出するという指摘がある

JERAのキーメッセージとキービジュアル
JERAのキーメッセージとキービジュアル(同社リリースから)

環境問題に取り組む弁護士グループらは10月5日、JARO(日本広告審査機構)に対し、発電会社JERAがアンモニア火力発電を「CO2を出さない火」と宣伝することは「グリーンウォッシュ」だとして、広告を中止するように申し立てを行った。景品表示法などに違反する疑いがあるという。グリーンウォッシュとは、環境に配慮しているようにごまかすことで、米国や欧州では訴訟が増えている。(オルタナ副編集長=吉田広子)

アンモニア混焼はCO2やPM2.5を排出する

日本政府は「グリーントランスフォーメーション(GX)戦略」のもと、石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させるアンモニア火力発電を推し進めている。

アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないため、日本政府は「非化石エネルギー源」と位置付ける。しかし、水素・アンモニアのほとんどは化石燃料由来で、サウジアラビアなど海外で製造されたものを輸送する計画だ。

オックスフォード大学のベンジャミン・フランタ博士は「火力発電所は、化石燃料を直接的・間接的に使用する限り、地中に貯留されていた炭素を大気中に放出することになるため、『CO2が出ない』とは言えない。水素やアンモニアを燃料としたにしても、化石燃料を使って製造する限り、『CO2が出ない』とは言えない」と説明する。

もう一つ懸念されるのが、大気汚染の問題だ。フィンランドのシンクタンクCREAは5月、アンモニア混焼でPM2.5(微小粒子状物質)が増加し、「人間の健康や生態系に壊滅的な影響を与える可能性がある」との報告書を発表した。

世界では広告が禁止される事例も

アンモニア火力発電を手掛けるJERAは2021年から、アンモニア混焼を「CO2が出ない火」「ゼロエミッション火力」とする宣伝を始めた。2023年版のCMでは、「化石燃料に代わる新エネルギー源、燃やしてもCO2が出ないアンモニア」とのナレーションが流れる。アンモニアの製造時や輸送時のCO2排出には言及しない。

環境法律家連盟(JELF、名古屋市)とNPO法人気候ネットワーク(京都市)は、これをグリーンウォッシュだと問題視し、JAROとJERAに対し、広告の中止を求める申し立てを行った。

「JERAがアンモニア火力発電を『CO2が出ない火』と宣伝することは、事実に反するとともに、時期などの内容があいまいで、重要な事実が告げられていない。消費者を誤認させる」と指摘。「消費者契約法、景表法、環境表示ガイドラインに違反する」とした。

JELFの池田直樹理事長(弁護士)は、「日本は環境活動に熱心だと考える人は多いが、気付けば世界から遅れてしまった。環境対策を進めるためには、正確な環境情報が必要だが、まだまだ事実が伝えられてない」と指摘した。

世界では、「グリーンウォッシュ」であるとして、環境配慮をうたう広告を巡って訴訟が起きたり、広告を禁止したりする事例が増えている。

例えば、英国の広告基準協議会(ASA)は、シェルの「英国は再エネの準備ができている」とのキャッチフレーズが、シェルの英国で投資、販売するエネルギーの相当部分がクリーンエネルギーとの印象を与えると認定し、同様の表示を禁止した。デルタ航空やKLMオランダ航空の環境配慮をうたう広告を巡って訴訟も起きている。

欧州委員会は3月、「グリーンクレーム(環境主張)指令」を発表し、企業が環境主張を行う場合、科学的根拠に基づいて立証することを求めた。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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