記事のポイント
- 人材を資本と捉え、中長期的な企業価値向上を図るのが人的資本経営だ
- 企業価値を測る尺度が変わってきたことが背景にある
- 人材戦略と経営戦略の紐づけが重要だと専門家は指摘する
人的資本経営とは、人材を「資本」と捉え、中長期的な企業価値向上につなげる経営を指す。人的資本経営に詳しい大喜多一範氏は、「人材戦略を経営戦略に紐づけることが重要だ」と解説する。(Future Vision社長・大喜多一範)
人的資本とは人材を「価値を生み出す」資本と捉え、人件費もそのための投資と位置づけた考え方だ。人的資本経営が注目されるようになった背景には、企業価値を測る尺度が変わってきたことがある。
「財務資本」や「製造資本」などの有形資産や、企業の技術的優位性の尺度となる無形資産の「知的資本」だけでなく、ステークホルダーとの関係を示す「社会関係資本」、自然資本と企業活動の源である「人的資本」などが重要視されるに至った。
企業のサステナビリティに関わる無形資産が中長期に渡り、企業価値を生み出し続けるものであるという認識が深まったことも関係がある。
2008年のリーマンショックを境にその動きは加速し、ESGが企業評価の指標の一つになった。人的資本は、ESGのうち「S」と「G」の2つに関わる、最も重要なサステナ要件だ。
特に日本では、高齢化が進み、労働力人口が減少する。業務の効率化やDXの推進と並んで、人材のスキルアップをはじめとする人的資本への投資が、企業の持続的成長に向けて必須条件となった。
人的資本への投資は、自社の経営戦略と人材戦略との関係が一貫している必要がある。そしてサステナ関連情報開示においても、その一貫性が重視される。
具体的には、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの要素をベースとした開示が最も効果的である。
人的資本に関する情報開示には、SASB、GRI、ISO30414のほか、欧州ESRSで規定しており、日本でも有価証券報告書やコーポレートガバナンスコードでの開示が義務化された。
■ビジョンの共有が「人育む」