なぜ政府はGHG算定に「ブルーカーボン」を入れるのか 

記事のポイント


  1. 沿岸部の植物生態系が吸収した二酸化炭素を「ブルーカーボン」と呼ぶ
  2. 政府は2024年度から温室効果ガスの算定にブルーカーボンを本格的に加える
  3. ブルーカーボンの吸収量を排出量全体から差し引くが、その狙いは

政府は温室効果ガス(GHG)の新たな吸収源として「ブルーカーボン」の算定を本格化する。昨年、国連に提出した報告書で初めて「マングローブ林」の吸収量を算定に加えたが、2024年度からは「海草」や「海藻」などによる吸収量も加える。ブルーカーボンの「Jクレジット」化を視野に入れ、GHGの排出が避けられない「残余排出量」対策として取り組む狙いだ。(オルタナS編集長=池田 真隆)

マングローブ林、日本では鹿児島県と沖縄県の沿岸に分布する

GHG排出量ネットゼロに向けた「残余排出量」対策として、GHGを吸収・貯蓄する技術に注目が集まる。残余排出量とは、GHGの排出が避けられない領域だ。ネットゼロに向け、企業は排出量の抑制に取り組むが、その過程において自社で削減できない領域が出る。そのため、残余排出量については、吸収・貯蓄で対応する。

GHGを吸収・貯蓄する主な方法は、植林だ。日本の年間のGHG吸収量は4760万トン(2021年度)で、その大部分の吸収源を森林が占める。現在、大気中のGHGを直接回収し、貯蓄する技術「DAC」の開発に取り組む動きもある。だが、コストが高く、実現可能性は未知数だ。

そこで、環境省が見出したのが「ブルーカーボン」だ。環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室の伊藤史雄室長は、「DACやCCSと比べてコストが安く、ポテンシャルもある」と話す。

政府が2023年4月に国連に提出した報告書では、2021年度分のGHG排出量と吸収量をまとめた。実は同年度の吸収量から、「ブルーカーボン」の一つである「マングローブ林」による吸収量を算定に加えていた。

マングローブ林は、成長とともに樹木に炭素を貯留する。加えて、海底の泥の中には、枯れた枝や根が堆積し、その中にも炭素を貯留する。日本では、鹿児島県と沖縄県の沿岸部に分布する。

マングローブ林による2021年度の吸収量は、2300トンだった。全吸収量(4760万トン)のうち、0.004%に過ぎない。だが、今後政府はブルーカーボンに力を入れる。

「洋上風力と海藻養殖」の組み合わせも

海洋に関する二酸化炭素の吸収方法は多彩で、ブルーカーボンの定義には幅がある。サンゴや貝殻などによる「石灰化」、鉄散布などによる「ジオエンジニアリング」などもある。これらの方法は、算定が不可能だったり、海洋投棄との関係から禁止されたりした技術だ。

そこで国連は、ブルーカーボンを「海洋生態系の生物を通じて吸収固定した炭素」と定義付けした。

この定義に基づき、ブルーカーボンを大別するとマングローブ林以外に3つある。いずれも面積当たりの排出量・吸収量の算定方法は検討中だ。

一つが、「海草の藻場」だ。海草や、その葉に付着する微細な藻類は、光合成で二酸化炭素を吸収して成長する。

二つ目が、「海藻の藻場」だ。海草と違い海藻は花を咲かさない藻類だ。主にワカメや昆布、メカブなどがそうだ。根から栄養をとらない海藻は、ちぎれてもすぐには枯れない。三つ目が、ヨシなどが繁り、光合成によって二酸化炭素を吸収する「湿地・干潟」だ。

これらすべては沿岸部に生息する湿地の植物生態系だが、その面積は約25万haだ。日本の森林面積(2500万ha)の100分の1に過ぎない。

だが、環境省の伊藤室長は、「ブルーカーボンは企業が関わりやすい。海の生態系を守る教育事業や地域振興の一環として取り組める。さらに、洋上風力発電と海藻の養殖を組み合わせることで、沿岸部だけでなく、沖合にもブルーカーボンを増やすことができる」と話した。

ブルーカーボンを「Jクレジット」へ

今年4月に国連に提出する報告書では、マングローブ林に加えて、海草と海藻の吸収量も算定に入れる。その後、ブルーカーボンの「Jクレジット」化を目指す。

現在、ブルーカーボンは「Jブルークレジット」だ。企業が国にGHG排出量を報告する際に、自社の排出量から差し引くことができるJクレジットと違い、ボランタリークレジットは引くことができない。Jクレジットに引き上げることで、需要を喚起する狙いだ。

伊藤室長は、「現時点でブルーカーボンの吸収量について数値的目標は掲げていないが、森林と同程度のポテンシャルを持つと見ている」と話した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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