2024年の自然資本関連トレンド: 実証から「仕組み化」へ

記事のポイント


  1. 昨年9月公開のTNFD最終提言によって自然資本関連情報の開示が相次ぐ
  2. 35カ国対象にした調査では約9割の企業が2026年までに開示すると回答
  3. 2024年の自然資本関連のトレンドを識者が予測した

2023年は、9月のTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)最終提言v1.0の公開を受け、企業においても自然関連の情報開示に取り組む例が目立った。本稿では企業における自然関連情報開示に関する2024年の発展方向性について、予測・考察する。

開示対応は「面的」に広がる

TNFDは現時点では任意開示にとどまっているが、TNFD事務局が行ったアンケート調査(35カ国、239の企業・金融機関が回答)によれば、2024年までに約35%、2026年までには約90%の企業が開示を始めると回答している。

今後国際的に、あるいは国内で開示の制度化が進む可能性を考えると、上場企業をはじめとした大企業などにおいて、2024年から2025年にかけて導入検討が面的に広がることが予想される。

自然関連情報開示の義務化制度については、EUにおけるCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用開始に加え、2024年はISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の国内適用に関する議論が進むことが考えられる。

各制度の動向を複層的に照らし合わせ、企業としての開示コストや効果もふまえた最適解の検討が必要となる。

パイロットから「仕組み化」へ

現在すでに「自然との関係性の分析・開示」を手掛けている企業においても、従来の取り組みは、拠点を選定したパイロットベースでの実施や、分析プロセスを一部に絞った実施も多かったと思われる。

一方、開示に本格的に取り組むためには、コア・グローバル指標をはじめとした非財務指標を各拠点から収集する、自然関連で生じるリスク・機会を既存の枠組みの中で管理するなど、組織として仕組み化することが必要となる。より効率的にデータ収集・管理・活用する仕組みについても議論が発展していくことも考えられる。

分析精度を高める動きも

現時点で、自然関連の情報開示に向けた分析プロセスは、「ツールやデータの入手が難しい」「分析精度が高めづらい」といった課題も存在する。

これに関し、例えばシナリオ分析を用いた中長期の分析では、今後、各企業が定量評価に用いるためのパラメータの検討を進め、より精緻な分析につなげようとする動きもある。

地域における生物多様性や生態系の状態などを評価する指標の整備やツールの機能拡充なども、複数の研究機関等において進められている。自然との関係性分析の精度を向上することで、開示の比較可能性を高めるなど実質的意義を高めていく動きとして注目される。

なお、TNFDやSBTN(Science Based Target Network、企業の科学的根拠に基づく目標設定の枠組み)においても、ガイダンス等の検討が継続して行われており、これらの動向にも注視が必要である。

執筆者
原 誠(はら まこと)氏
クニエ マネージング・ディレクター  
外資系コンサルティングファームを経て、クニエで農業・食品インダストリーチームを立ち上げ。農林水産省SBIR事業のPM代表のほか、JST、NEDOにおいてもSBIRの委員を務める。その他農林水産省各種委員を歴任。

今 真理子(こん まりこ)氏
クニエ シニアコンサルタント 
農林水産省各種事業、第一次産業分野を中心とした調査・コンサルティング業務や、自然・生物多様性、グリーンカーボン関連の調査、自然資本に関わる政策研究支援、TNFD対応の企業の情報開示コンサルティングなどに携わる。

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #TNFD#生物多様性

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