気候変動と企業と「表現の自由」の不思議な関係

記事のポイント


  1. 企業が気候変動などESG関連情報を開示することの重要性は増している
  2. EUや米国などそれぞれの規制当局が企業に開示を義務付ける方向で動く
  3. だが、「表現の自由に反する」として、その動きが弱まる可能性もある

ESG領域の「透明性」が求められる中、企業が気候変動などESG関連情報を開示することの重要性は増している。EUや米国では、それぞれの規制当局が開示を義務付ける方向で動く。だが、「開示が困難」「表現の自由に反する」などの理由から、その動きが弱まる可能性も出てきた。(オルタナ副編集長=池田 真隆)

ロイターなど複数の米メディアはこのほど、「米証券取引委員会(SEC)の最終案では、スコープ3排出量の開示義務化を断念する見通し」と報じた。スコープ3は、企業のサプライチェーン全体の排出量を指す。

企業のGHG排出量のうち、スコープ3は全体の7~9割を占め、脱炭素については、「スコープ3対策」が重要課題だ。スコープ3は自社でなく、サプライヤーの排出量なので、削減はもちろん、現状の排出量を把握することから困難だ。

まだ明確な解決策が確立できていない領域であるが、この領域でいち早くリードしたいと狙うEU(欧州連合)は企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を施行し、すでにスコープ3の開示を義務付けた。

「米国憲法修正第一条『表現の自由』に反する」との指摘も

当初SECもEUと同じく、スコープ3の開示義務化を行う方針だった。だが、ここに来てその方針を変えようとしている。この背景にあるのが、「表現の自由」の解釈だ。

SECに対して、スコープ3の開示義務化を反対する企業は、データ収集の困難さだけでなく、「表現の自由」に反すると声を上げる。

実際、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は同州で事業を行うすべての企業(非上場企業を含む)に対し、気候関連情報の開示を義務付けたが、商工会議所などから表現の自由を保証する、「米国憲法修正第1条」違反などを理由に訴訟を起こされている。

そもそも、米国憲法修正第1条とは何か。日米で弁護士資格を持つ蔵元左近弁護士は、「1787年に制定された米国憲法は、当初は人権保障が不十分でした。そのため人権保障を強化するために、1791年、修正条項として人権条項が追加されました」と説明した。

ポイントは、「表現しない自由」も表現の自由に入ると解釈されている点だと言う。

だが、義務化されないからといって、企業がESG関連の情報開示を怠ることはリスクにもなると指摘した。

「企業には透明性が求められる時代になっており、気候関連情報の開示は企業経営上の重要なトレンドになっています。表現しない自由が保障されている一方で、積極的な情報開示によって企業のステークホルダーからの信頼を確保することとのバランスを取っていくことが、今後は問われるようになると思います」

EUは開示が「困難」として、CSDDD延期へ

欧州委員会は、環境・人権双方の観点から、持続可能で責任ある企業行動を促進するため、「CSDDD」(コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令)を協議してきた。

この指令は、企業活動によって、環境と人権の側面から、どのような負の影響を及ぼしているか、特定を求めた。必要に応じて、その影響の防止や緩和も求める。2023年12月に暫定的に承認したが、このほど、ドイツとイタリアが反対し、延期が決まった。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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