「教育で世界を変える」:国際NGOの創出する社会インパクト

記事のポイント


  1. 国際女性デーを記念して、国際NGOが映画「少女たちが未来を変える」を初公開
  2. 制作したルーム・トゥ・リードは、非識字や男女不平等のない教育を推進する
  3. 映画を通じて、少女たちが「ライフスキル」を身につけることの重要性を強調する

国際NGO・ルーム・トゥ・リードが制作したアニメーションと実写の映画シリーズ『少女たちが未来を変える(She Creates Change)』が、3月8日の国際女性デーを記念してアジア(日本は対象外*)で初公開される。同NGOは、「子どもの教育が世界を変える」を信念に、非識字や男女不平等のない教育活動を推進する。CEOのギータ・ムラリ博士に、世界の女子教育の現状や、同団体が創出した社会インパクト、少女たちが身につけるべき「ライフスキル」などを聞いた。(オルタナ副編集長・北村佳代子、吉田広子)

ルーム・トゥ・リード制作の「少女たちが未来を変える」

*日本では、上映会を希望する学校、企業、個人に日本語の字幕とともに対応する。

■ルーム・トゥ・リードとは
ルーム・トゥ・リードは、「子どもの教育が世界を変える」との信念に基づき2000年に設立され、非識字やジェンダー間の不平等のない世界を実現するために活動している。歴史的に低所得地域に住む子ども達が識字能力と読書習慣を身につけ、少女達が中等教育を修了し、人生の重要な決断をするためのスキルを身につけられるよう支援することで、この目標を達成しようとしている。地域社会、パートナー団体、政府とも協力し、教育システムに統合できる革新的なモデルを試験・実施し、大きなスケールで子ども達に有益な成果をもたらしている。リモートでの学習支援も加わり、現在までに23カ国、182,000か所以上の地域で3,900万人以上の子ども達へ教育を届け、2025年までに4,000万人の支援を目標とする。

■ギータ・ムラリ博士

ルーム・トゥ・リード最高経営責任者(CEO)

米ノースカロライナ大学チャペルヒル校で生物統計学の修士号を取得後、米カリフォルニア大学バークレー校で南アジア政治学を専攻、修士号および博士号を取得。2009年にルーム・トゥ・リードに参画。企業や非営利団体で25年以上、さまざまな教育技術プログラムに関与し、彼女の識字率向上とジェンダー平等へのコミットメントは、元米国大統領夫人ミシェル・オバマやビル&メリンダ・ゲイツ財団などから高く評価されている。

ギータ・ムラリCEO(南アフリカの学校にて)

――ルーム・トゥ・リード設立から23年が経ち、世界の教育の現状をどう認識しているか。

女子教育への注目も世界中で高まり、以前に比べ、より多くの子どもたちが学校に通えるようになり、識字率の向上も見られる。

しかし、COVID-19のパンデミックでの後退は過小評価してはならない。ユネスコは、2億5000万人の子どもたちが学校に通えず、2021年以降はさらに600万人の子どもたちが途中で退学したと報告する。最も多い時には15~16億人の子どもたちが、国によっては2年近くもの間、登校できなかった。

読み方を学べなかった子どもたちが将来、雇用にありつくことはほとんどない。世界経済にも貢献できない。子どもたちが質の高い教育を受けることは基本的人権であり、そのための行動を起こさなければ、子どもたちは、21兆ドルもの生涯所得を失うリスクがあると言われている。経済への影響という点でもこのリスクは大きい。

ルーム・トゥ・リードでは、子どもたちが3年生になるまでに確実に読み方を学び、女児が学校を卒業できるよう注力している。なぜ、教育を最優先課題だと考えるのか。それは、気候変動対策や貧困、紛争等の社会問題を議論するためにも、基礎的な教育がなければ解決する方法もないからだ。

世界的な課題を解決するには、必要とするスキルを持つ若者に投資することが一番だ。だから私たちは、人々の課題意識の最上段に「教育」が据えられるよう、行動している。

――ルーム・トゥ・リードでは、ソーシャルインパクトをどのように測定しているのか。

私自身は統計学者だ。各種プログラムをデータ主導で進め、社会的インパクトを考察している。

識字教育プログラムでは、毎年2回、約3500地点をサンプリングし、例えば教師のトレーニング時間、貸し出し・配布した本など、15の指標に照らしたモニタリングデータを継続的に収集して、特別な支援が必要な学校を特定するとともに、読み書きの「スキル」と「習慣」の両方を調査する。

読み書きのスキルは流暢さや理解力を、読み書きの習慣については、子どもが楽しむために読書をする時間を調べている。

評価結果を見ると、ルーム・トゥ・リードの識字教育プログラムを受けた子どもたちは、プログラムを受けていない子どもたちよりも、流暢に読めることが示されている。小学2年生の終わりまでに、プログラム実施校でテストを受けた生徒は、平均で同世代の生徒2倍、国によっては3倍近く、速く読むことができる。

プログラムを受けた子どもたちは、読解力も向上している。読んだばかりの文章について読解の質問をしたところ、プログラム実施校の子どもたちは、実施していない学校の子どもたちよりも、平均して87%多く正解した。

女子教育プログラムでは、ライフスキルの教育が中途退学に与える影響を調べた。これも、私たちの取り組みが中途退学の抑制につながることがデータで示された。

卒業から5年後の状況を見ると、プログラムを卒業した子どもたちの83%が就職または高等教育機関に進んだ。一般的に、学業を修了する割合が20%以下の地域において、こうした測定結果は、私たちの取り組みが、非常に意味のあるものだということを示している。

私たちはまた、独自の測定ツールであるALSA(Adolescent Life Skills Assessment for Girls)を開発中だ。ALSAは、ライフスキルの測定をプログラムおよびプログラムの評価作業に統合するものだ。

また単に測定するだけでなく、収集したデータをもとにプログラムの改善にもつなげている。

インドネシアでの取り組み

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

執筆記事一覧
キーワード: #SDGs

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..