台湾、女性のSTEM人材育成に躍起

記事のポイント


  1. 台湾はOECD「社会制度・ジェンダー指数」でアジアのトップだ
  2. 台湾では女性のSTEM(科学、技術、工学、数学)人材も増加している
  3. 半導体世界大手のTSMCも、STEM女性人材の確保に力を入れる

OECDの2023年「社会制度・ジェンダー指数(SIGI)」で台湾がアジアトップ(世界6位)に躍り出た。男性の育休給付金申請や、女性のSTEM(科学、技術、工学、数学)人材も増加している。半導体世界大手のTSMCも、STEM女性確保に力を入れる。(オルタナ副編集長・北村 佳代子)

台湾は女性のSTEM人材が増加している

OECDの「社会制度・ジェンダー指数(SIGI)」は、社会制度に潜む女性への差別要素に焦点を当て、国の法律、慣行、態度などを評価する国際指標だ。家庭内での差別、身体の完全性への制限、生産や財産権への制限、市民権への制限の4要素を、19項目の指標と173の小項目で分析する。

スコアが低いほどジェンダーの取り組みが先進的であることを示し、2023年は179カ国・地域の平均スコア30に対し、日本は32.9、台湾は9.2だった。

台湾政府(行政院性別平等処)は2024年1月、「2024年ジェンダー概観(性別図像)」を公開した。2021年に育児休業給付金を賃金の60%から80%に引き上げるなど、申請に柔軟性を持たせた結果、2022年には、給付金申請者に占める男性の割合が施行前(2020年)から7ポイント上昇し、過去最高の25%となった。

同報告書は職場での「ジェンダーにやさしい政策」の推進と、男性も家事を担うよう奨励してきたことが奏功したと分析する。

同性婚も、台湾は2019年5月の合法化以降、2023年には同性カップルの国際結婚および養子縁組の権利を拡大し、婚姻の自由をさらに前進させている。2023年までに同性婚を届け出た人は2万5千人強(男性8千人弱、女性1万8千人弱)に上った。

ユネスコは、STEM領域のキャリアやデジタルスキルにおいて、男女間に偏りがあると報告する。STEM科目への関心や成績は、就学前や初等教育では男女間にほとんど差は見られない。しかし成長するにしたがって、女子のSTEM科目への参加比率は低下する。理工系分野に男性が多く、人文系分野に女性が多い傾向は、各国で共通に見られる。

■STEM女性の比率、TSMCは3割超

台湾も例外ではない。しかし、「2024年ジェンダー概観」は、台湾でのSTEM人材に占める女性比率が23%(2021年)と安定的に増加傾向にあり、STEM領域で活躍する女性の育成も進んできていると報告する。STEMの各分野別に見ると、高等教育で「情報通信科学技術」を専攻する女性の比率は、29.5%(2020年)と、他国に比べて4-8ポイント高い。

台湾が誇る世界的半導体メーカーのTSMC(台湾積体電路製造)にとっても、STEM人材の確保は重要課題だ。同社のSTEM人材全体における女性比率は33.8%(2022年)と、台湾全体の平均を上回る。

同社は、2030年までに女性管理職比率20%以上、技術プロフェッショナルの新規採用者に占める女性比率30%以上という目標を掲げる。そして、働きやすい環境の整備と、将来の成長を担うSTEM人材の発掘・確保に、一貫してアクセルを踏み続けてきた。

同社の人事施策を率いるのが、TSMCのナンバー3、ローラ・ホ(何麗梅)シニア・バイスプレジデントだ。彼女は同社で16年にわたってCFO(最高財務責任者)兼広報担当を務め、「アジアのテック業界で最も影響力のある9人の女性」(日経アジア・2018年)にも選ばれている。

女性のSTEM人材の育成に関しても、TSMCはSTEM領域を学ぶ台湾全土の女子学生と積極的に接触を図る。TSMC教育文化基金財団を通じて、台湾・国立自然科学博物館とも協力しながら、女子高校生向けに提供してきた「TSMC女性科学者レクチャーの旅」には、2020年以降計17回の開催で、16校から3千人を超える女子高校生が参加した。

■先のキャリア像、女子学生に示す

TSMCの目的は、単に半導体の設計・製造・応用への関心を高めてもらうだけでなく、STEM領域を学んだその先のキャリア像を女子学生らに示すことで、科学技術分野を担う次世代の女性育成を図ることだ。

参加者はTSMCのイノベーションミュージアム「台積創新館」へのガイドツアーや科学ワークショップ、パネルディスカッションで、実際にTSMCで働く女性エンジニアや台湾の著名な女性科学者と触れ合い、他校の生徒たちとも交流を深める。

人材採用においては、インターンシップ・プログラムを通じた優績者の発掘・採用に加え、女性に焦点を当てたキャリア共有会を開催し、半導体業界やTSMCでの仕事・職場での経験を女性経営幹部や女性エンジニアらが直接、女子学生らに説明し、質疑応答や個別面談も行う。

2022年は受け入れたインターン639人の35%に内定を出し、女性はその29%を占めた。女性キャリア共有会では、「ナノメートルの世界で無限の可能性を探る」と題したテーマで説明をし、工学部で学ぶ女子大学生・大学院生ら107人の中から最終的に32人を採用した。

■TSMC社内で増える女性STEM人材のロールモデル

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #ジェンダー/DE&I

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