記事のポイント
- 第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が始まった
- NGOや市民団体は原発やアンモニア混焼火力に依存しない脱炭素を求める
- 計画方針を決める会議体を原発や化石燃料の推進派が占めることも問題視する
第7次エネルギー基本計画に向けた議論が始まったのを受け、環境NGOや市民団体が5月16日に会見を開いた。NGOらは原発や化石燃料からの脱却を求めるが、政府はこれらを「脱炭素電源」として活用する方針だ。世界の潮流に反するこうした政策の根底には、計画の方針を決める会議体の多数派を原発や化石燃料の推進派が占めるといういびつな問題がある。(オルタナ副編集長・長濱慎)
■議論の場に多様な世代・立場の参加を求める
会見を開いた「ワタシのミライ」は、脱炭素社会への公正な移行や再エネ100%を呼びかけるNGOや市民団体のネットワークとして2023年に発足した。
FoEジャパン、グリーンピース、350.org、アムネスティなどの環境・人権NGO、若者の気候正義運動「フライデーズ・フォー・フューチャー」、生活協同組合のパルシステムやワーカーズコープ連合会など、17団体で実行委員会を構成する。
「ワタシのミライ」は第7次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が始まったのを受け、以下の6項目からなる意見書を政府に提出した。
1. エネルギー基本計画の見直しに若い世代を含む多様な立場の専門家、環境団体、市民が参加し、民主的で透明なプロセスによる国民的議論を行う
2. 2030年の温室効果ガス削減目標をパリ協定1.5℃目標に整合させる。加えて35年に向けた野心的な削減目標を25年2月までに国連に提出する
3. 原子力や化石燃料に頼らない、省エネ・再エネによる脱炭素方針を計画に盛り込む
4. 原子力の再稼働、運転延長、新増設・リプレース、新型炉の開発をやめる
5. 水素・アンモニアやCCSなど、この先10年の間に実用化が間に合わない技術に頼らない
6. 原子力・化石燃料から省エネ・再エネを中心とした産業・社会構造への公正な移行が円滑に進むよう、雇用確保や地域支援、暮らしのサポート、格差や不平等の是正に取り組む方針を計画に位置付ける
■「原発・化石燃料推進派、60代以上、男性中心」で方針決定
エネルギー基本計画は国の中長期的なエネルギー政策の指針で、3年ごとに見直しが行われる。第7次となる今回は、2050年を見据えて2035年以降の電源構成も議論する方針だ。
原発の斜陽産業化と脱化石燃料という世界的な潮流に反し、日本政府はこれらを引き続き活用しようとしている。エネルギー基本計画の議論に先立ち5月13日に開いた「GX実行会議」(議長:岸田文雄首相)でも、2040年に向けた国家産業戦略の柱に原子力や「脱炭素火力」(水素・アンモニア混焼やCCS)を掲げた。
なぜ、このようなことになるのか。その根底には、政策の方針決定を行う会議体の多数派を原発や化石燃料の利害関係者が占めるという構造的な問題がある。エネルギー基本計画の議論を進めるのは、経産大臣の諮問機関である「総合資源エネルギー調査会」だ。その下に4つの分科会が置かれ、さらに多くの小委員会やワーキンググループが紐づく。
これらの中から主だった15会議体のメンバー構成を、気候政策シンクタンクの「クライメート・インテグレート」が検証した。例えば、会議体の一つである「基本政策分科会」は、エネルギー基本計画の案を作成する重要な役割を担い、16名で構成される。
分科会長を務める隅修三・東京海上日動火災保険相談役は、これまで原発や水素・アンモニア混焼などの必要性を強く訴えてきた。15名の委員も京都大学複合原子力科学研究所、日本エネルギー経済研究所など、原発や火力発電に肯定的なメンバーが目立つ。
検証を行ったクライメート・インテグレートの安井裕之・公共政策ディレクターは、こう指摘する。
「一見中立に見える大学やシンクタンクのメンバーも、経産省の出身など何らかの形でつながっているケースが少なくない。企業のメンバーについても素材系、資源・エネルギー供給などのエネルギー多消費産業関係が多い。それに対し、再エネ転換に積極的な産業、NGO、市民団体からの参加はほとんどない」
15会議体のほとんどが50代〜70代中心で、平均75%を男性が占めることも明らかになった。これに対しては「若者や市民が参加できる仕組みになっていない。公正な視点という観点から、原発事故で被害を受けた人々も議論の輪に入れるべき」(室橋祐貴・日本若者協議会代表理事)など、手厳しい声が上がる。
オンラインで会見に参加した大島堅一・龍谷大学政策学部教授(原子力市民委員会座長)は「市民団体でカウンターとなる会議体を立ち上げ、経産省が振り向かざるを得なくなるほど世論を喚起し、こちらが考える市民参加のあり方を示すべき」と、エールを送った。
エネルギーの問題は、あらゆる産業や人々の暮らしと直結する。気候危機の影響を強く受ける次世代やマイノリティなどの多様な意見を取り入れることなく、一部の利害関係者だけで政策方針を決めても、社会の潮流からかけ離れたものにしかならないだろう。