不都合な真実: 石炭火力は最新型でもCO2がLNGの2倍

記事のポイント


  1. 日本の発電量に占める石炭火力の割合は先進国でも群を抜いて多い
  2. 日本には「超々臨界」など先進技術があるから大丈夫との主張もある
  3. しかし、こうした最新火力発電でも排出CO2はLNGの2倍に達する

先進国首脳会議(G7)は2024年4月末、「温室効果ガス削減対策がなされていない石炭火力発電所は2030年代前半までに段階的に廃止する」との閣僚声明を発表した。日本の総発電量のうち石炭火力が占める割合は「3割」と、G7でも突出している。どう向き合えばよいのか。(オルタナ客員論説委員・財部明郎)

■日本の石炭火力の技術は本当にすごいのか

日本では全発電量に占める石炭火力の割合は、先進国の中でも最も高い。その廃止については日本も抵抗していたが、2024年4月末にイタリアのトリノで開いた「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」では、他国に押し切られた格好になった。

国内では、「日本の進んだ石炭火力技術なら、廃止しなくても目標を達成できる」とか、「日本の最新技術の石炭火力は温室効果ガスの対策済みなので、廃止する必要はない」などとの意見も聞かれる。

しかし、日本の石炭火力技術は本当にすごいのか。そして、日本の進んだ技術を取り入れた発電所なら廃止しなくても、1.5℃目標を達成できるのか。この記事では日本の火力発電技術の実力について検討してみたい。

■LNGと同じ熱エネルギーを得るには2倍の石炭が必要

まず、なぜ石炭火力はこれほど悪者にされるのか。それは地球温暖化の原因となるCO2の排出量が多いからだ。ではなぜCO2をそんなに出すのか。

石炭は炭素集積度が高いので、これがCO2を大量に排出する原因だと言われることがあるが、実は石炭の炭素分はそれほど多くない。

石炭は真っ黒で、いかにも炭素のかたまりのようにみえるが、石炭には炭素だけでなく水素や酸素も含まれるため炭素分はそれほど多くない。一般炭で70~75%くらいだ。

これに対してLNG(液化天然ガス)に含まれる炭素の割合は75%程度あって、むしろ石炭より多い。このため、1kgの燃料を燃やして出てくるCO2の量は、石炭でもLNGでもあまり変わらないか、むしろLNGの方が多いくらいだ。

問題は発熱量である。石炭を燃やした時の発熱量はLNGの半分程度しかない。だからLNGと同じ熱エネルギーを得ようとすると、約2倍の石炭を燃やさなければならなくなる。それが、CO2排出量が多くなる原因なのだ。(発熱量あたりのCO2排出量で比較すると、石炭が0.0906tCO2/GJ、LNGが0.0495tCO2/GJ)

※GJ(ギガジュール、1ジュールの10億倍。ジュールは熱量や仕事量の国際単位)

■石炭が不完全燃焼しやすいのもCO2増の要因に

もうひとつの原因は石炭が固体なので燃えにくいということだ。LNGの場合、燃料は気体であるから空気と混ざりやすく、完全燃焼しやすい。しかし、石炭は固体だから空気と混ざらない。空気と接触する表面から順に燃えていくことになるので、燃えにくく不完全燃焼を起こしやすい。

昔の石炭炊きボイラーは黒煙がモクモクと出ていたが、この正体は燃え残った炭素だ。また不完全燃焼によって有毒な一酸化炭素も発生しやすくなるし、もちろん燃料の一部が燃えないわけだから得られる熱エネルギーも小さくなる。

現在では黒煙モクモクは許されないので、完全燃焼させるために、燃焼室へ大量の空気を送り込むことが行われる。空気を余剰に送り込めば、完全燃焼しやすくなるが、煙突から出ていく排気の量も当然増える。

そもそも空気中の酸素は2割程度しかなく、残りの約8割が燃焼とは関係ない窒素である。だからこの窒素はそのまま(一部は燃焼して有毒な窒素酸化物NOxとなって)煙突から出ていく。

このとき、石炭の燃焼によって発生した熱も、排気ガスが持っていってしまうため、使える熱量が減り、それを補うためにまた燃やす石炭の量を増やさなければならなくなって、さらにCO2の排出量が増えることになるわけだ。

このように、石炭は炭素分が多いわけではでないが、発熱量が低いことや、固体であるため完全燃焼しにくいという性質が原因となってCO2排出量が多くなる。日本の技術者たちはこのような不利な特性を持った石炭を使いながら、無駄なく石炭からエネルギーを取り出すための技術開発を進めてきたのである。

■「石炭ガス化複合発電」は日本の得意技の一つ

石炭の燃焼効率を上げる方法はいくつかある。まず、石炭を砕いて小さな粒にして燃やす方法がある。小さな粒になれば空気と接触する面積が増えるから、完全燃焼しやすくなって燃焼効率が上がる。これは微粉炭燃焼といわれる。

あるいは、石炭を蒸し焼きにすることによって、ガスにして燃料させる。石炭がガスになれば、これは天然ガスと同じであるから空気と混ざりやすくなって燃焼効率は飛躍的に向上する。

また、石炭をガスにすれば、ボイラーではなくガスタービンで燃やして直接発電機を動かすこともできる。ガスタービンというのはジェットエンジンと同じものだ。さらにガスタービンで発生した排ガスの熱を使って高圧のスチームを作り出し、このスチームでもタービンを回して発電機を動かす。

つまり、石炭をガスにし、それをガスタービンで燃焼させてエネルギーを取り出したあと、その排熱を利用してスチームタービンを動かして、ここでもエネルギーを取り出す。こうやって、徹底的に石炭の持つエネルギーを利用する訳である。この方法はIGCC(石炭ガス化複合発電)と言われ、日本の得意技の一つである。

空気の代わりに酸素を使って燃焼させる方法もある。既に述べたように空気の約8割が窒素なので、これが熱を持ち去って行く。だから空気から窒素を取り除いて純粋の酸素にして燃焼させてやれば燃焼効率は上昇する。

■「超臨界」「超々臨界」という石炭発電の最新技術

また、一般の発電所では石炭やLNGを燃焼させて高温・高圧のスチームを作ってスチームの流れを作り、この流れでタービンを回して発電する。この時、スチームの温度が高いほど発電効率はよくなる。

スチームの温度をどんどん上げていくと、液体でも固体でも気体でもない「超臨界」とよばれる状態となるが、さらに「超々臨界」と言われる領域まで温度を上げて発電効率を良くしようという技術も実用化されている。これはUSC(超々臨界発電)といわれる方法で、これも日本の得意技である。

日本の技術者達はこれらの技術を駆使して、石炭火力発電の効率を上げていった。世界の石炭火力発電の発電効率が30%台なのに対して、日本の場合は「40%」だ。発電所によっては45%に達しているものもある。そのレベルは世界一といっていいだろう。

■石炭火力は最新型でもCO2がLNGの2倍出る
■アンモニア混焼は、石炭専焼よりCO2が多い
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■そもそも石炭火力は本当に安いのか
■再エネという、豊富だが気まぐれな電源を賢く使う

財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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