キリン、ワイン造りで「ネイチャーポジティブ」実現へ

記事のポイント


  1. キリンはワイン用のぶどう畑を通して生物多様性保全に取り組む
  2. 垣根栽培・草生栽培で希少種を含む生態系の回復に寄与する
  3. 同社は1990年代から自然資本への対応に取り組んできた

キリンは遊休荒廃地をワインのぶどう畑にすることで生態系保全に取り組む。同社の事業は水や農産物に依存しており、1990年代から自然資本への対応を行ってきた。遊休荒廃地でのワイン造りはその一環で、ぶどう畑にすることで多数の希少種も見つかった。(オルタナ総研=坂本 雛梨)

ワイン造りを通してネイチャーポジティブを目指す

同社はぶどう、茶葉、大麦など自然の恵みである農作物を原材料として、幅広い飲料製品を展開する。そのため、依存する自然資源への対応は1990年代から行ってきた。

生態系の減少を食い止め、回復を目指す「ネイチャーポジティブ」を掲げ、その一環として、長野県上田市でシャトー・メルシャンのぶどう畑「椀子ヴィンヤード」を2003年に開墾した。それ以来、約20年をかけて生態系の回復に力を入れる。

2014年には、同社は農研機構との共同研究で生態系調査を始めた。これまで昆虫168種、植物289種を確認した。その中には希少種の昆虫・植物も含まれ、国内で4個体目のタソガレトンビグモという珍しい種も発見された。

椀子ヴィンヤードの生態系が豊かになったのは、「垣根栽培・草生栽培」のぶどう畑によって良質な草原ができたからだという。垣根栽培は地面にまで日光が降り注ぐため、背丈の低い植物が生育しやすい。さらに、年に数度行う下草刈りによって、在来種や希少種に陽が当たるようになる。

垣根・草生栽培のブドウ畑

生態系を守る「草原」は国土の1%以下に

かつて草原は家畜の餌や屋根材に使われるなど、人間の暮らしに密接に関係していた。しかし、近代化によって草原が減少し、現在は、国土面積の1%以下だ。

多くの絶滅危惧種が生息する草原の回復は生物多様性に大きなポジティブインパクトを与える。

2023年10月、椀子ヴィンヤードは環境省の自然共生サイトに認定された。自然共生サイトで唯一、農業生産を行う畑である。

自然共生サイトとは、国が認定した民間や自治体などが所有する生物多様性の高い区域を指す。2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「30by30」の目標達成を後押しする制度だ。

椀子ヴィンヤードは地元の小学校との協働で絶滅危惧種の回復に取り組むなど、環境教育の場としても活用されてきた。キリンは椀子ヴィンヤードでのCSV活動を通じて「地域、自然、未来」3つの共生とワイン用ぶどう栽培の両立を目指す。

オルタナ総研

オルタナ総研

サステナビリティ経営に特化した「オルタナ総研」は、株式会社オルタナの事業部の一つとして、2012年に設立しました。 各企業、NPO/NGOなど幅広いステークホルダーとのエンゲージメントによる経験を活かし、多様なニーズに呼応できるコンサルティングサービスを行っています。

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..