「人権尊重」が企業価値の向上に直結する3つのポイント

記事のポイント


  1. ILOが機関投資家向けの人権対応ガイドラインを策定した
  2. 企業が人権対応に取り組む理由を、機関投資家の立場からまとめた
  3. 人権尊重が企業価値の向上に直結する3つのポイントを紹介する

国際労働機関(ILO)駐日事務所のワーキンググループはこのほど、機関投資家向けの人権対応ガイドラインを策定した。同ガイドラインは企業が人権対応に取り組む理由を、機関投資家の立場からまとめた。人権尊重が企業価値の向上に直結する3つのポイントを紹介する。(オルタナ副編集長=池田 真隆)

近年、人権と自社の投資行動を関連付けて考える流れが急速に広がる。人権侵害は、投資先企業の価値に大きな影響を与えるため、事業活動における「人権デューデリジェンス(DD)」が求められている。人権DDは、人権侵害のリスクを調査・特定し、予防・軽減・是正のために対処する行いだ。

同ガイドラインでは、「ビジネスと人権」における人権尊重は、投資行動と企業価値向上に直結すると結論付けた。企業がビジネスと人権にどう向き合うべきか、投資家の目線で整理した。

策定したのは「ビジネスと人権啓発資料開発ワーキング・グループ」。ILO駐日事務所が取り組む「移行のための技能開発と責任ある企業行動プロジェクト」内のグループだ。

人権対応は企業体質を変革する機会に

このガイドラインは3つのセクションから構成する。一つ目のセッションでは、「ビジネスと人権」の考え方を紹介した。二つ目は、なぜ機関投資家が人権に取り組むべきかを説明し、最後は、どう取り組むかを、ケーススタディを用いてまとめた。

ガイドラインの最後で、人権対応が企業価値の向上につながる3つのポイントを紹介している。

一つ目のポイントは、企業体質・文化・体制を変革する機会であることだ。経営者自らが人権課題を正しく認識して発信することで、企業の取り組みを大きく変えることができる。

投資先企業には、経営資源を適切に割り当て、潜在的なものも含む人権課題に目を向け、優先的に対応することを期待すべきとした。この際、人権尊重に関する投資家との対話を機会と捉えることも指摘した。

人権リスク「ゼロ」は説得力に欠ける

二つ目のポイントは、透明性のある情報開示だ。強制労働や児童労働など人権課題の中には、地域社会の構造的課題に根差しているものが多い。そのため、自社・サプライチェーンを通じて人権侵害が全く生じていない(ゼロリスク)という報告は説得力に欠けてしまう。

投資先企業には、人権への負の影響が生じ得ることを前提に、関係する人権課題をステークホルダーとの対話を基に特定した上で、取り組みの内容と効果を透明性ある形で情報開示することを期待した。

最後のポイントでは、なぜ人権対応が企業価値の向上につながるのかを説明した。

人権への負の影響を把握せず、人権侵害を放っておくと、不買運動、人材流出、訴訟問題などにつながり、築いてきた企業価値が下がる。他方、人権尊重に取り組むことで、地域住民が企業の応援団となり、消費者の購買意欲を上げ、自社や取引先の労働者の人的資本の構築につながる。こうして、結果として企業の価値向上にもつながると強調した。

人権リスクの管理は、困難だ。だが、人権侵害発覚後の対応コストに比べれば、事前管理に要するコスト・資源は少ないとも指摘した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #ビジネスと人権

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