記事のポイント
- リチウムイオンに使うPFASについて米国の科学者が環境や健康の懸念を示した
- 国連が廃絶を定めた3種類以外にも、海外ではPFAS規制の強化が進む
- 一方、日本では経産省や日本経団連が欧州の規制に反対を表明しており、孤立しかねない
米国の科学者は7月8日、リチウムイオン電池に使われるPFASの1種「bis-FASI」について研究結果を発表し、環境や健康面での懸念を示した。国連は、1万種類以上の物質があるとされるPFASのうち3物質を、環境や人の健康への有害性から廃絶対象に定めた。日本では経産省や日本経団連が欧州の規制反対を表明しており、このままでは国際的に孤立しかねない。(オルタナ副編集長・北村佳代子)

有害性が確認されたと科学者が懸念を示す
■海外で進む「PFAS」規制強化
PFASは、水や油をはじき、熱に強いといった特性から、調理器具の焦げ付き防止や衣料品の防水・撥水加工、食品包装、化粧品、泡消火剤、半導体など、世界中で幅広い製品に使われている。自然界ではほとんど分解せず、長期間残留することから、「永遠の化学物質」と呼ばれる。
PFASのうち、有害化学物質を規制するストックホルム条約(POPs条約、2004年発効)で国連が廃絶対象に指定するのは、「PFOS(ピーフォス)」「PFOA(ピーフォア)」「PFHxS(ピーエフヘクスエス)」の3物質だ。
日本でも、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」によって、PFOSは2010年4月、PFOAは2021年10月、PFHxSは2024年6月に製造と輸入を禁止した。
環境汚染に加え、がん、肝臓や心臓への影響、子どもの発達や免疫系への影響など、さまざまな健康影響が懸念されている。欧州や米国を中心に、世界では、この3物質にとどまらず、PFAS規制の強化を進める。
■リチウムイオン電池のPFASにも環境・健康懸念
国際的な科学ジャーナル誌「ネイチャー」は7月8日、リチウムイオン電池に使われるPFASの一種「bis-FASI(ビスパーフルオロアルキルスルホンイミド)」が、環境と人びとの健康を脅かすとの研究結果を掲載した。
「リチウムイオン電池の製造に使用されるbis-FASIは、製造現場近くのコミュニティだけでなく、これらの電池が捨てられるあらゆる場所で検出され、新たな問題となっている」と、同論文の共著者の一人、米デューク大学のリー・ファーガソン教授(土木・環境工学)は言う。
この「bis-FASI」については、これまでほとんど研究されてこなかったため、「bis-FASI」の毒物学的データはほとんど存在しない。そこで今回、科学者らは無脊椎動物や小型の魚への影響を調べた。その結果、低曝露レベルで、すでに問題視されている他のPFASと同様の毒性が確認されたという。
論文は、PFASを使った電池の廃棄に関する基準や規制がほとんど存在しないことを指摘した。同時に、過去に「bis-FASI」は再利用できるという研究結果が出ていることにも言及する。
「この新たなPFASについて、もっと詳しく調べる必要がある。しかし、クリーンなエネルギー・インフラの拡大を図る今こそ、環境リスクアセスメントを実施する好機でもある」と共著者の一人、米テキサス工科大学のジェニファー・ゲルフォ研究者は言う。
「EVのような技術革新でCO2排出量を削減することは重要だが、PFAS汚染の拡大といった副作用を伴うべきではない」(ゲルフォ氏)