記事のポイント
- カンヌライオンズでは、社会課題への解決アプローチを見ることができる
- 受賞作品を見ることで、新たな社会課題への気づきにもつながる
- 紹介するのは、MRIの不安をやわらげたり、車を通じて就業を支援するものだ
世界最大規模の広告・コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)」は、世界にクリエイティブなアイデアとともに、様々な社会課題への解決アプローチを知れる場でもある。受賞作品の優れたアイデアは、SDGsコミュニケーションや社会課題解決のヒントになるものも多いだろう。また今まであまり注目されていなかった社会課題に着目したものもあり、受賞作をみていくことは新たな課題への気づきにもつながる。今回は6月に開催されたカンヌライオンズの受賞作品の中から、新たな社会課題に着目した作品を中心に考察していく。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)
■子どものMRIの恐怖をやわらげる「Magnetic Stories」
MRI検査を受けるとき、閉鎖的な空間でじっとしている状況は、子ども達にとっては苦痛だ。そして、何より機械から発せられる大きな電磁音は、子ども達の不安をさらに高める要因になっている。
このようなMRI検査における不安で孤独な時間を、少しでも楽しい時間にしようと、医療機器メーカーのSiemens Healthineersが開発したのが「Magnetic Stories」だ。
著名な作家やサウンドデザイナーと協力し、MRIから発せられる電磁音を活用したオリジナルのオーディオブックを制作した。恐怖だった電磁音が、その特徴にあわせてロボットの音や、列車の音として聞こえるようなストーリーになっている。
不安で孤独な時間を耳で聴くエンタメに昇華させるという斬新なアプローチが評価され、Pharma Lionsグランプリを獲得した。
■雇用機会にアクセスできる交通手段を提供した「Cars to Work」
近年、フランス国内では、郊外に住んでいる人々が職に就くことが困難となっている。その理由のひとつとして挙げられるのが職場までの交通手段だ。求職者の54%が「職場までの交通手段がない」という理由で仕事を辞退した経験があるというデータもある。
ルノーが立ち上げた新たなサービス「Cars to Work」は、求職者がルノー車を購入すると仕事が見つかるまでの間、ローンの支払いが免除されるという内容だ。
せっかく仕事が決まっても、職場に行くまでに必要な交通手段である車を購入することができない。購入するためにはお金が必要なのに、車がないことで仕事に就けない。こういった負のループから抜け出し、求職者が雇用機会にアクセスできるよう支援していく。
この取り組みは、Creative Commerce Lionsでグランプリを受賞した。ルノーのパーパスである「乗り物を全ての人に。車へのアクセシビリティを広げる。」に基づき、社会課題を全ての人に乗り物を提供することで解決している。
一方で、まだ発見されていなかった課題の領域のターゲットに向けた施策は、企業へのロイヤルティを高めると同時に、売り上げにも長期的な効果をもたらすだろう。社会課題解決と企業経営への貢献の両立という点からも注目できる事例だ。
■絶滅危惧種保護にアンブレラ種という新たな視点を与えた「UMBRELLA SPECIES」
WWFは、創立50周年を迎えるにあたり、絶滅危惧種と生息地の保護に対する意識を高めるため、特に「アンブレラ種(地域の生態ピラミッドの最高位に位置する種)」に焦点を当てた活動をおこなう決定をした。
しかし、アンブレラ種は生態系を維持するために重要な種ではあるが、その認識はまだ世の中では広まっていない。なぜアンブレラ種を保護することが重要かをわかりやすく伝えていくことがまず必要であった。
そこで、出されたアイデアが「入れ子人形」だ。アンブレラ種の保護が他の多くの種を間接的にも保護する連鎖的な効果を持つことを、開けるたびに別の生物の人形があらわれる入れ子人形で表現した。
人形は、バーチャルギャラリーとしてWEB上で展示されるほか、看板での掲出がおこなわれた。さらに今後は実際の人形として販売される予定で、収益はすべて絶滅危惧種の保護活動に寄付される。
このユニークな取り組みは、保護活動における新たな視点を示し、子どもを含めた幅広い世代に親しみやすく伝える効果的な手法として注目された。
次回も引き続きカンヌライオンズの受賞作品からSDGsコミュニケーションの今後を考察していく。