「脱炭素」に原発を推進すべきでない7つの理由

記事のポイント


  1. 政府は原発を「脱炭素電源」と位置付け、再稼働や新増設を進める方針だ
  2. しかし、原発を推進しても温室効果ガスは減らないことが明らかに
  3. 原発問題を研究する大島堅一・龍谷大学教授に、その理由や問題点を聞いた

政府はGX(グリーントランスフォーメーション)において原子力発電を「脱炭素電源」と位置付け、再稼働・新増設・新型炉の開発を進めようとしている。しかし、最近の研究では「原発を推進しても温室効果ガスは減らない」ことが明らかになった。大島堅一・龍谷大学教授は原発は脱炭素に貢献せず、かえって気候変動対策を遅らせると指摘する。その理由を7つに分けて紹介する。(聞き手:オルタナ副編集長・長濱慎)

運転時にCO2を出さない=脱炭素ではない

■理由1:2030年までのGHG削減に貢献できず

原発は運転時にCO2などの温室効果ガス(GHG)を出さない。しかしこれだけで「脱炭素電源」というのは短絡的だ。2050年ネット・ゼロの実現には、中間点の2030年までにどれだけ多くのGHG排出量を削減できるかがカギを握る。

国内の原発の大部分は老朽化しており、新増設や建て替えが前提になる。しかし、原発の建設は時間がかかる。環境アセスメントや地域の合意形成を含めれば、20年は必要だろう。今すぐ建設するとしても稼働は2040年代になり、2030年には到底間に合わない。

大島堅一(おおしま・けんいち) 龍谷大学政策学部教授、原子力市民委員会座長、日本環境会議代表理事。エネルギー利用にかかわる環境問題に関する政策課題をテーマに、気候変動、原子力の社会的費用、再エネ普及政策を研究。主な著書に『原発のコスト』(岩波書店)、『原発はやっぱり割に合わない』(東洋経済新報社)など。YouTubeでは『環境哲学ちゃんねる』を配信。

理由2:次世代革新炉には軍事転用のリスク

政府は革新軽水炉やSMR(小型炉)を次世代革新炉として推進する方針だが、実現性に疑問符が付く。最大の課題は燃料の調達だ。これらの新型炉の多くは既存の燃料(ウラン濃縮度5%程度)でなく、濃縮度を20%に高めた特殊な燃料を使う。

現在これを製造できるのはロシアしかなく、日本同様に新型炉を進めようとする米国でも課題になっている。濃縮度を高めた燃料は軍事転用もでき、世界的な核軍縮の努力に水を差しかねない。最大の環境破壊である戦争に関係する恐れもあり、倫理的にも実現は不可能だろう。

理由3:「負の相関」で原発が再エネの普及を抑制

2030年に間に合わないなら2040年代からでも良いという考え方もあるかもしれない。しかしそもそも、原発は脱炭素に貢献するのか。

英サセックス大学でエネルギー政策や気候変動対策を研究するベンジャミン・ソヴァクール教授らは2020年、論文を発表した。これは世界123ヵ国25年間の原発発電量とGHG排出量を統計的に分析したもので、原発を推進してもGHGが減らないことを明らかにした(※)。

最大の理由は、原発と再生可能エネルギーの「負の相関」にある。つまり、原発を増やすと再エネの普及が抑制されGHGを削減できない。逆に、再エネの発電量が増えた国では削減が進んでいた。

原発と再エネはトレードオフの関係にあるという指摘は重要だ。政府は両者とも普及させる方針を掲げるが、二兎を追うのは絵に描いたモチでしかない。原発という選択肢を捨てて、再エネに注力すべきだ。

※Differences in carbon emissions reduction between countries pursuing renewable electricity versus nuclear power(nature energy)

理由4:事故リスクを考えると「天文学的」なコスト

資源エネルギー庁による試算(2021年)では、太陽光のコストが初めて原発を下回った。2030年時点の1キロワット時あたりの発電コストを想定したもので、原発11円台に対して太陽光は8円台だった。世界的にも、太陽光と風力を中心とした再エネのコストは下がり続けている。

一方の原発は、事故が起きた場合の賠償や廃棄物処分、使用済み燃料の再処理、廃炉費用を十分に考慮しておらず、11円台で収まるかも怪しい。中には「推計不能」という項目もあり、これらを含めれば天文学的な金額に膨れ上がるだろう。ひとたび事故になれば取り返しの付かない被害をもたらす原発を推進する理由は、もはや存在しない。

理由5:高コストのツケは国民が払わされる

原発に経済性はなく、国の支援なくして成り立たない。政府は脱炭素電源オークションや容量市場といった仕組みを導入して、原発の維持に必死になっている。そのツケを払わされるのは国民だ。

7月には一部のメディアが、経産省が原発の建設資金を電気料金に上乗せする新たな制度を検討中と報じた。これは「原発版・総括原価方式」と呼べるもので、英国のRAB(規制資産ベース)モデルを参考にした。しかし英国では建設費用が2倍に高騰し、国民の批判にさらされている。

電気料金への上乗せは、全国民の費用負担を意味する。そこには、原発と無関係の再エネ事業者から電力を購入する人々も含まれる。果たして原発に、そこまでして維持しなければならない「公共性」があるのか。(談)

理由6:福島原発事故の100分の1しか想定していない

理由7:稼働できずに27年が経った「六ヶ所村の再処理工場」

「原発複合体」に対抗する強力なメッセージを

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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