記事のポイント
- 日本が国連に提出する次期NDC(国の排出削減目標)案が大詰めを迎える
- 世界の医師らは、「1.5℃目標」に沿った行動を取ってこなかった日本に警鐘を鳴らした
- 気候と健康を守るためにも「1.5℃目標」に沿った野心的な目標が必要だと強調した
世界的な医学誌「ランセット」が主宰する気候変動と健康に関する国際事業「ランセット・カウントダウン」は17日、日本が取り組むべき「優先政策エリア」の提言を発表した。提言書の中で世界の医師らは、「日本はこれまで1.5℃目標に沿った行動を取らず、健康の重要性を優先事項として十分に考慮してこなかった」と断じる。次期NDC(温室効果ガスの国別削減目標)案の議論が大詰めを迎える中、日本政府に「1.5℃目標」に整合した野心的な目標を求める声の輪に、国際的な医療業界も加わった形だ。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

「ランセット・カウントダウン」は、世界 50 以上の学術機関と世界保健機関 (WHO) などの国際機関に所属する 122 名の科学者ならびに医療従事者の専⾨知識を結集する国際研究事業だ。毎年、気候変動が健康に及ぼす影響と、気候変動対策が健康にもたらす便益を40以上の指標でモニタリングし、包括的な評価を⾏う。
2023年の国連COP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)では、各国は次期のNDCにおいて、健康分野の適応を強化するとともに、人間の生存、健康、ウェルビーイングを優先する新たな機会を創出するよう促された。
「しかし、日本はこれまで1.5℃目標に沿った行動を取らず、健康の重要性を優先事項として十分に考慮してこなかった」とランセット・カウントダウンは断じる。そして、気候と健康を守るためには、「1.5℃目標」に沿った野心的な気候目標と、カーボンバジェット(炭素予算)の制約内で十分な排出削減を達成することが急務だと強調した。
なかでも、健康に重大な影響を及ぼすのが大気汚染だ。2021年には、PM2.5などの人為的な大気汚染(PM2.5)に起因する死亡者数が8万人に上り、そのうち31%が石炭や液化ガスなどの化石燃料によるものだったと指摘する。
ランセット・カウントダウンは、日本の化石燃料への依存は健康に重大な影響を及ぼすと警告する。
一方で、再エネの利用を拡大すれば、温室効果ガス(GHG)の削減や大気汚染の影響の軽減が図れるだけでなく、都市の緑化や、徒歩や自転車での移動促進施策を組み合わせることで、健康的なライフスタイルが促進され、人々のウェルビーイングの向上にもつながると提言した。