第4の原則:「高遠な使命と目的」
インドでは、ルールにより管理する米国のガバナンスとは異なり、「価値に基づくガバナンス」を重視しています。そして、幅広いステークホルダーの利害のバランスを図り、事業活動に近接する地域社会はもとより、国全体の利益を重視します。
インド社会とビジネス共同体では、企業の社会的責任は逃れることのできないゴールであり、多くの利害をバランスさせることこそ、経営者の責任と考えられています。
■インド・ウェイを実践するインフォシス
こうしたインド・ウェイを実践している企業として、インドを代表するIT企業のインフォシスがあります。インフォシスは、創業者のナラヤナ・ムルティ氏のもと、「インドで最も尊敬される企業を目指す」という理念を掲げ、以下の原則を設定し、これに拘り続けています。
「良心に背くことは行わない。
疑いがあるときは、開示せよ。
会社の資源を個人的に利用するな。
短期的利益よりも長期的利益を優先せよ。
大きなパイの小さな一片は小さなパイの大きな一片よりも良い。つまり会社を成長させるためには経営者が利益を広く従業員に分配することである」
例えば、インフォシスでは、製品の輸入にあたって税関から賄賂を要求された場合でも、賄賂を支払うことはせず、代わりに高い関税を支払うといった行動を取ることが、社員に浸透しています。
こうした姿勢に拘ることにより、腐敗した役人もインフォシスの社員には賄賂を要求しなくなり、顧客は信頼を高め大規模なプロジェクトを任せるようになり、最も優秀な人材を獲得できるようになっています。
CEOのムルティ氏は言っています。「株主価値の最大化は非常に重要ですが、それは、合法的、倫理的、かつ公正に図られなくてはなりません」「長期にわたって存続することは、企業の成功を測る最高のものさしです。これを達成するには、社会と調和して事業を進めなければなりません」
【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT出版)
(この記事は、株式会社オルタナが2014年5月7日に発行した「CSRmonthly 第20号」から転載しました)