これは農産品でも同じ。消費者から見れば、どの産地のリンゴもおいしく、優劣は付けがたい。一方、青森県の木村秋則さんのリンゴは、「奇跡のリンゴ」と呼ばれ、何年も待たないと買えない。その人気の秘訣は、不可能を可能にした農法と木村さんのリンゴ生産にかける想いゆえだ。ワイナリーも同様、おいしさだけではなく、ワイン作りにかける想いこそが顧客を魅了し、差別化を生み、付加価値を高める。
「機能」やサービスの「種類」といったプロダクトアウト中心の視点だけでは、価格競争に陥りかねない。「高機能・多機能の商品・サービス」が一般的となり、社会の価値観が多様化した現代では、機能を中心としたコンテンツ競争から、共有価値に基づくコンセプト競争にシフトさせ、付加価値を創造するサイクルに変えなければ、差別化につながらない。
CSV戦略を通した企業価値の創造とは、まさに、企業のコンセプトを社会と共有し、ストーリーのある企業活動を行うことで差別化をもたらし、付加価値を生み出すことだ。「どのような取り組みか」より、「どういったコンセプト(理念) があるのか」といった方がステークホルダーを魅了し、付加価値を高めやすい。
では、どのようにコンセプトを作るのか(第7回)。長い歴史を持つ組織ほど過去の経緯に根付く組織風土や事実をとらえなければ、内部の関係者に浸透させにくい。創業理念や組織の歴史、事実などのエビデンス(証跡) が前提だが、過去に固執しすぎては魅力的にならない。他方、「スローガン」では言葉が上滑りし、ステークホルダーの納得感を得にくい。