記事のポイント
- 上場企業に人的資本開示が義務化されてから、今年で3年目を迎える
- これまで5000社超の企業の人的資本開示をつぶさに分析したUniposの田中会長に話を聞いた
- 田中氏は企業に「ホワイト企業らしさ」を訴求する開示からの転換を提案する
2023年3月期決算から上場企業に人的資本開示が義務化されて以来、日本企業の人的資本開示の進化が続く。これまで国内外の5千件超の人的資本開示をつぶさに分析してきたUnipos(ユニポス)の田中弦会長に、企業の人的資本開示の好事例や課題などについて話を聞いた。(オルタナ副編集長:北村佳代子)

田中 弦(たなか ゆづる)氏:
Unipos株式会社代表取締役。国内外5000社以上の人的資本開示を読み込んだ「人的資本経営専門家」としても活動。経営者としての実体験や、多数のクライアント事例、膨大な開示事例から導き出した、経営戦略と人事戦略を紐づけるための「人的資本経営フレームワーク(田中弦モデル)」を考案。著書に『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』(ダイヤモンド社)、『5000の事例から導き出した人的資本経営大全』(東洋経済新報社)。
■「ホワイトらしさ」は伸びしろを隠す
女性活躍推進法の施行に続き、有価証券報告書での人的資本開示の義務化もあり、人的資本経営について参考にできる事例のネタは3年前から格段と増えた。企業のサステナ開示を見ても、ESGの「S」のセクションの中心テーマは、これまでのボランティアなどの地域コミュニティとのかかわりから、途端に人材にフォーカスする形へと移行している。
これまで国内外の5000社超の人的資本開示を分析し、全体的に受ける印象は、日本企業の多くが、「ホワイト企業山」への登頂を目指している、ということだ。
「社員は当社の宝だ」「人材は当社経営にとって非常に大事」の書き出しから始まり、研修費用や女性管理職比率の上昇、従業員エンゲージメントスコアについて触れる。従業員に求めるスキルやキャリア開発の仕組みなどを細かく説明する企業もあるが、総じて「自社はホワイト企業だ」というアピールのように映る。
ホワイト企業であることは素晴らしい。しかし、同じような人的資本開示では、他社との差異化も難しい。個人の持ち物である人的資本を、どう束ねて組織としての強みにし、各社の目指す姿へと歩みを進めるのか。そうした経営の営みは、各社各様のはずだ。
経営者でもあり経営コンサルティングも手がける私が、企業の人的資本開示を見ると、そこから経営の営みが見えることに価値を感じる。
各社固有の課題や目指す姿に対し、現時点で何が不足し、人材面でどのような手当てをしようとしているのか。課題は企業の伸びしろであり、そうした経営の営みが種明かしされると、その企業は、「ホワイト企業山」ではなく「偉大な企業山」の登頂を目指していると感じられる。

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