「GRI国際会議2016」、G4からスタンダードへ

下田屋毅の欧州CSR最前線(50)

CSR/サステナビリティ報告書の国際的なガイドラインを定めるGRI(グローバル・リポーティング・イニシアティブ)の主催による「GRI国際会議2016」が5月18日~20日の3日間にわたり、オランダ・アムステルダムで開催され、筆者は前回2013年に引き続き参加の機会を得た。(在ロンドンCSRコンサルタント下田屋毅)

このGRIは国際NGOで、CSR/サステナビリティ報告書に関する世界的なガイドラインを発行する国際組織である。2000年に同組織として初めてのCSR/サステナビリティ報告書のガイドラインを発行し、現時点ではCSR/サステナビリティ報告に関するガイドラインにおいて世界における中心的存在となっている。

今回の国際会議には、世界77カ国から約1200人が参加、議題として取り上げられたのは、このGRIが発行しているCSR報告書ガイドラインが「スタンダード(基準)」という形式へと移行すること、また、「持続可能な開発目標(SDGs:2015年9月国連発表)」、「企業の協働」「データのデジタル化」などがテーマとして掲げられた。次にこれらの概要を紹介したい。

「G4からGRIスタンダードへの移行」
各国の企業は現在、GRIの第4世代のG4ガイドラインを使用している。そして今回このG4をベースとした「GRIスタンダード(基準)」を開発している。これは世界における企業を取り巻く環境が劇的に変化している中で、それらに迅速に対応するための改訂といってもよい。

これはG4の各側面が30+のテーマに特定されたスタンダードに落とし込まれ、3つのユニバーサル・スタンダード(基準)である「SRS 101」「SRS 201」「SRS 301」が全ての報告書に適用されることとなる。

スタンダードは、G4の内容がこのスタンダードの各所に振り分けられており、内容の変更はほとんどないが、用語の変更・簡素化や、振り分け場所の変更が行われている。また、GRIスタンダードに移行後も、企業はG4と同様に今後も企業の取り組むべきマテリアリティ(重要な側面)を特定して報告することとなる。

「持続可能な開発目標(SDGs)」
今回の会議の各セッションは、SDGsの17の個別の目標にどのように関連しているかが分かりやすく紐付けられていた。このSDGsとは、国連が新たに2030年までの目標として掲げた、全世界が取り組むテーマであり、この会議においても企業が取り組むべき中心として取り上げられていた。3日間の会議中、多くのスピーカーが、SDGsに関連するテーマでの企業の取り組みについて発表している。

国連作業部会「ビジネスと人権」議長のダンテ・ペッシュ氏は、「SDGsは我々の望む将来を作るためのその場しのぎの解決法ではない。負の影響を軽減・避けるための『害を及ぼさない』姿勢で臨むことがSDGsへのアプローチとして重要となる」と述べ、世界的にこのSDGsの目標に取り組む気運が高まる中、企業が与える正の影響だけでなく、環境・社会、特に企業が引き起こしている人権の問題に関連する負の影響についても考慮する必要があることを強調した。

「企業の協働」
GRIのクリスティアナ・ウッド議長は、企業に「協働」の実施を強い言葉で訴えた。これは、現在の企業はサステナビリティの課題に直面しており、一企業単独では、課題の解決が難しく、様々な企業同士の協働により乗り切ることができるとし、その協働が徐々に生み出されてきているという。

共通の目標を持つ他社との協働により、それぞれの能力を結集することで、サステナビリティの課題を解決するためのイノベーションを可能とする。外部のステークホルダーとのパートナーシップ、協働により、世界に変化を促していく必要があることが強調された。

「データのデジタル化」
このGRI国際会議の3日間を通して他にサステナビリティ・データのデジタル化に焦点が当てられ、変革の推進のために、テクノロジーの役割が重要であることをビジョンとして示した。ビッグデータという大きなデータの波が押し寄せているが、企業による良質なサステナビリティのデータの確保と提供が今後鍵となることが強調された。

今回の国際会議は、特に大きな目玉があったわけではなかったので、日本代表団が組織されず、日本からの参加者も非常に少なかったが、確かにCSR報告の方向性を定める会議として機能していた。そしてCSR/サステナビリティ報告書のガイドラインとしては、GRIは確かに世界の中心にあることを確認した。

G4からスタンダードへの移行に伴い更なる強化が図られ、また環境・社会に関する「非財務情報」の開示について世界的に法令で義務付ける国が増加傾向にある状況下で、日本企業は、今後このGRIのG4ガイドライン/スタンダードの活用において、ただ社会・環境に関する報告のツールとして考えるのではなく、企業経営にCSR/サステナビリティを組み込んでいくきっかけとなるツールでなりうるというGRIの本来の意図に沿って活用することが、企業が本来のCSR/サステナビリティを実施していく上で非常に重要になると考える。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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