非財務情報の先を見つめる投資家

Image credit:Mark Bonica

日本でも企業の戦略や業績などの「財務報告」と、ESGCSRなどの「非財務報告」が一体となって企業の価値を表現する「統合報告」の発行が年々増えています。ですが、昨今の国内の統合報告の趨勢を見てみると、少し投資家向けに重心が置かれ過ぎ、ESG情報は財務的成果に結びつかなくては意味がない、と断じられている傾向にやや疑問を感じている今日この頃です。(中畑 陽一) 

私自身、まだ答えのない旅の途中ですが、ここにひとつ別の見方を提示してみたいと思います。今回は、投資家・アナリストの観点からこの問いに迫りたいと思います。

多様な投資家の視点や手法と、対応を迫られるアナリスト

機関投資家のESGへの期待としては、「それが本業とどう結びつき、どのようにキャッシュ・フロー創出能力に結びつくのか、そのための重要な情報をわかりやすくコンパクトに開示してほしい」というものが命題となっています。これは極めてもっともな意見であり、投資家への基本的な開示方針はこれを主軸に考えるべきかと思われます。しかしながら、一方でこの考え方自体が従来の財務資本中心型の考え方であり、価値=財務資本という枠組みの延長であるようにも感じます。本当にそれだけでいいのか、考えてみたいと思います。 

まずは世界の現状のESG投資手法の趨勢を概観してみましょう。 ESG投資の手法は、スクリーニングからインテグレーション、株主行動まで様々なアプローチあります。現状、欧米を中心に社会的に有害なテーマに、関連する銘柄を除外するネガティブスクリーニングが最大のアプローチであり、投資手法にESGを組み込むインテグレーションにおいても、直接的なキャッシュ・フローへの影響を計算しているケースはかなり少ないものと思われます。

参考)Global Sustainable Investing Review 2016

そうした中、経済産業省が進めている「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」で三菱UFJモルガン・スタンレー証券の松島氏は「非財務情報の何に注目するかがアナリストの眼力」「企業価値はIIRCの6つの資本などから実現し、企業のDNAを理解することが必要」と述べて、非財務情報を読み解き企業の実力を把握できるアナリストへの啓発の必要性を説いています。 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jizokuteki_ESG/pdf/001_10_00.pdf

直接的、短期的に成果につながりにくい非財務情報を読み解いていくのは、さぞかし困難なことかと思いますが、企業を様々な角度から分析できる報告があれば、多様な角度からの企業分析に役立つことでしょう。 キャッシュ・フローに結びつけやすいのは、主力事業や短期的な取り組みであり、長期的な価値創造を行う人材育成や研究開発、そして企業理念や地域社会活動などと結びつけるのは、極めて難易度が高いものです。だからこそ直接的にキャッシュ・フローを追いかけた開示を追い求めることは、逆に企業本来の多面的な価値創造能力を見つけることを、弱めてしまう恐れもあると感じます。

日経ベリタスが発表している、アナリストランキング総合1位のみずほ証券の渡辺英克氏は、アナリストとして大切にするのは、「バランスと仮説の検証」で、経営者がステークホルダーの支持を得られるかどうか、そういったバランスをもっているかを重視していると述べています。

このように、アナリストサイドも、企業価値の多様性、価値の多様性の時代に適応すべく、果敢に財務と非財務との落としどころを探っています。アナリストは当然ながら、企業がどのように将来的なキャッシュ・フローを創造していくのかの視点を持ちつつ、非財務情報も含めた分析力を高めています。そこにおいてさえ、「財務的価値」を超えた社会や投資家のニーズに敏感になっていることが感じられます。

 

nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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