「企業は誰のものか」という命題の終わり

■経済活動の前提としての社会・環境に責任を持つ

すでに、投資パフォーマンスに影響する環境要因自体が、すでに社会性や環境性といった資本市場の課題に対する反省と改善といった動きに大きく依拠される時代となっています。

さらには、企業活動に社会的責任が問われているように、投資活動にも社会的責任が前提となるのであって、ESG投資や企業活動が単に1株当たり利益の向上が見込めるかどうかだけの近視眼的な判断基準で断じられることには、懐疑的であるべきでしょう。

従って、「企業は株主のものである」を前提として、株主重視のコーポレート・ガバナンスに軸を置く場合にも、上記のような長期的かつ社会包摂的な観点をふまえた投資方針の整備と実施が前提になるべきです。

投資方針の開示やESG投資の進展など含め、そのような取り組みは進んでいるとは言え、十分にそれが浸透しないまま株主主導のガバナンスにした場合、ヘッジファンドや短期的な利益や配当を重視した投資家などの声に押され、企業の長期的な価値を毀損し、社会課題の悪化を招くこともあるでしょう。

「受託者責任」という概念があり、資産運用会社が株主の利益を損なわない運用をするための旗印となっています。

最近はESGを考慮する運用が受託者責任に抵触しないことが認められつつありますが、単に個々の株主のお金を守るとか殖やすというのではなく、資本を育む経済・金融も社会・環境の健全性を損なっては持続しないことを「熟慮」して、「責任」をもって運用するのが「真の受託者責任」ではないでしょうか。

そうでなくては、いずれ資本自体の母体である社会や環境が破たんし、株主自体にその影響が跳ね返ってくるでしょう。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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キーワード: #CSR#ESG

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