インドネシア、噴火の被災地を 「観光資源」に

ジープツアーで走るのは、この噴火の「被災地」である。

ムラピ山周辺の村々で主に農業を営んでいた住民たちは、噴火によって仮設住宅暮らしを余儀なくされた。畑も家畜も仕事も失い、将来の生活をどうしていくべきか。

復興のヒントとなったのは、バイクの所有者が小遣い稼ぎにしていた観光案内「バイクツアー」だ。このアイデアを元に、軍隊が救助活動に使った中古ジープを共同購入したのは、噴火が起きてからわずか5か月目のことだった。

 

自然の表と裏を伝える

博物館のオーナーであるスリアンド氏

およそ2時間のツアーで、ジープは山々の眺望や飛来した巨岩、土砂の採掘地、破壊された避難所、そして博物館を見て回る。シサ・ハルタク(「残った宝物」の意)博物館に展示されているのは、焼け死んだ家畜の骨格標本や黒焦げの家電・家具、溶けた日用品、そして火山灰で埋め尽くされた部屋である。

楽しいだけのツアーではない。自然がもたらす恩恵と傷跡を同時に体感することができる。ジープツアーをしているのは、ほとんどが被災者だ。ドライバーの中には家族を失った人もいる。

この5年間で、ジープツアーは毎年10万人が参加する人気のアクティビティとなった。そのうち外国人は3割ほど。ジャワ島をはじめ国内の島々から訪れる観光客の方が多い。ジープの台数は120台を超え、毎月の売り上げは日本円にして約1千万円に上る。

被災した自分の家を博物館に改装したスリアンド氏は次のように語った。

「ほとんどすべての物が燃えてしまったことは悲しいですが、わたしたちは災害が起きても何を残せるのか、そのことを、特に子どもたちに示していきたいと思っています。噴火はいずれまた起きますから」

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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