サステナビリティ経営の質を見極める 3

統合報告にとって最も重要だと思われるのは、その企業がどんな価値を生み出していきたいのかという信念・ビジョンがあるか、企業経営者に哲学があるか、企業理念という名の哲学が浸透しているかが、読み取ることができるか、ということではないかと思います。

なぜなら、それはその企業が何のために存在し、どんな価値を生み出そうとしているかを規定し、時代や地域を超えて生き抜くための拠り所であるからです。

数年前に全世界でヒットした人類の歴史を壮大なスケールで描いた本『サピエンス全史』では、サピエンスが脳の面積では劣勢にあったネアンデルタール人に勝利できたのは虚構を生み出す力があったからだと言われています。虚構というのは、宗教・主義・文化・システムといった広い意味での人々に共感や行動様式を与える物語のようなものです。

それによって非常に多くの人々が団結し、同じ目的に向かって規律正しく行動を起こすことが可能になったということです。企業にとっては、企業理念こそがこれに当たるでしょう。

企業理念の重要性は、『ビジョナリーカンパニー』でも述べられており、長年続いている企業の社長が、その持続性の要因や伝えていきたい事としてよく口にするのが「企業理念」です。

そもそも何のために企業は存在し、社会は存在するのか。どうあるのが良いと思うのか。どうしていきたいのか。統合報告であれ、サステナビリティ報告であれ、新しい時代を切り開く企業報告に最も求められるものは、耳障りのいいキャッチコピーでも、創られたストーリーでも、斬新なビジュアルや他社や慣例に合わせた予算ではなく、まずは企業自身がその存在意義を問い直し、社会や歴史、そして未来に向き合っていくための誠実さと覚悟、そして地道な日々の努力ではないでしょうか。

それは、統合報告以前に、企業の持続可能性、アイデンティティ、存在理由として、必要なものだと思います。「統合報告」ではなく、「これからの企業経営」と言い換えて読むこともできると思います。

最後に。これまで勝手に思ったことを書き連ね、読む側からすると企業のサステナビリティへの姿勢を見抜く材料を幾分かはご提供できたかと思いますが、一方で企業サイドからすると、レポーティングのハードルを大きく上げてしまったように思います。私自身、大した人間でもないので、大きな責任を背負ってかじ取りをされている経営者の方々や、限られた予算や人員で、悪戦苦闘しながら取り組まれている企業のご担当者の方々には頭が下がる思いでいっぱいです。

ただ、一方でやはり統合思考で解決していくべき問題が多々あることも事実でしょう(「統合報告」を発行するかどうかは別として)。従って、率直に思ったことをお伝えすることも大切な事かと思い、あえて自由に述べさせていただきました。

少しでも統合報告やサステナビリティ報告によって社会・企業・地球が調和し、持続可能性な社会、企業が実現していくことを心より願っております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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