震災復興における「伴走型・発展的評価」を考える

支援者の力と対象事業の価値を引き出す「発展的評価」

本シンポジウムのテーマは「発展的評価」であるが、上記の2つの事例とどんな接点があるのかと疑問に思われる方も多いだろう。「発展的評価」とは、状況把握と適応、そして学習・変革を志向する評価である。

レストランの料理に例えると、伝統的な2種類の評価である「総括的評価」と「形成的評価」、そして「発展的評価」は以下のように説明できる。
・レストランで客が食事をして「おいしい!」と言うのが「総括的評価」(客は外部評価をおこなう)
・レストランでシェフが味見をしながら料理を仕上げていく「形成的評価」(シェフは自己評価をおこなう)
・シェフに付き添って食材の選択や調理方法を一緒に吟味していく「発展的評価」(シェフに付き添って伴走評価をおこなう)

上述の2つの事例で言えば、「発展的評価」はそれぞれの「支援者」の力と対象事業の価値を引き出してくれるものである。

ちなみに教科書的には、「発展的評価」の特徴は次の3つに整理される。

1.評価として役に立つ学びを提供する、その結果の活用を促すという「実用重視」の特徴
2.問題の根本原因ではなく、問題を生み出すシステムを捉えるという「複雑系の世界」を前提としている特徴
3.革新・適合のプロセスを見える化、工夫や新しい試みを支援するという特徴(イノベーションの支援)

現場での「発展的評価」実践のヒント

上記2つの事例について、本シンポジウムの企画者である一般社団法人 東北圏地域づくり復興コンソーシアム 事務局長 高田篤氏から、「事例ではなぜうまくいったか、うまくいかなかったかだけでなく、細かい変化がどのように起きているかを見逃さないようにしないといけない。小さな変化の積み重ねが一定の動きになるので、全体で見ないでそれぞれの点を見ることが必要である」との問題提起があった。

まさに「発展的評価」は、その役割を担うのである。本シンポジウムでは、ひとつのアプローチとして支援者が持つべき観点を紹介した。それが「3つの質問」である。

「3つの質問」
1.What:「何が起こっている?」という事実
2.So What:「だから、どうした?」という解釈
3.Now What:「では、何をする?」という行動

支援者は、どうしても自らの経験に頼った経験的・感覚的な支援が多くなってしまう傾向があり、1~3までを一足飛びに動いてしまいがちである。しかし①で踏みとどまることで、物事を客観的に判断するためのデータとなる。

2つの事例でもこれまでなんども細かい意思決定をしており、それぞれの意思決定は何に基づいて行ったのかを振り返ってもらった。調査というと、ある程度規模のあるアンケートや、しっかりと場を用意してのインタビューが思い浮かぶが、これらは相手も身構えてしまうので必ずしも真実を答えてくれるわけではない。

むしろ日々の活動の中で自然に触れるが貴重なデータの宝庫であり、現場で聞こえてくるつぶやきなどの生の声をいかにデータ化するかが重要である。①事実(What)を事実として記録すること。これを必要な場で取り出して、これをもとに意思決定を繰り返すことの必要性を伝えた。これは地域の中で日頃から伴走しているからこそ、拾いやすいのである。地域住民が当事者性を持ちながら客観性を持って、地域での活動をよりよくしていけるのだ。「3つの質問」を使うことで、日々のデータの取り方・気づきや学習の質が変わり、支援を行う姿勢が変わるかもしれない。発展的評価というと小難しくなるが、これは誰もが様々な現場で使いやすいのではないだろうか?

復興後の地域支援のあり方を考える

震災後10年で復興期間が終わり被災地は平時に戻る。しかし被災者の深い心の傷や一度分断された地域コミュニティはそう簡単には治癒しない。行政からの支援が縮小されて人材リーダーが不在する中で、地域住民同士が互いに支え合う仕組みや、一人の課題が見つかったら地域の課題として捉え直して解決の方向性を探る、という試みはますます発展させていく必要がある。

リソースが限られた中で、地域内で活動する人・組織も、地域の外から支援に携わる人・組織も、地域での取り組みを発展させていくために「発展的評価」のような現場で活用できるアプローチを積極的に取り入れてみるのはひとつの方法ではないだろうか。

本ミーティングの参加者アンケートでは、「発展的評価の理論はよくわからなかったが、現場で使えそう」という声が多かったようである。評価は理論を知るだけでなく、現場で使ってなんぼ、役に立ってなんぼであり、被災地における活動でもひとつの可能性の扉が開けたように思う。被災地の支援者の力と事業の価値をますます引き出すためにも、震災後8年目のこの時期に、もう一度被災地の状況に思いを馳せて、自らがどう行動するかを考えていただけたら幸いである。

◆千葉直紀(ちば・なおき)
CSOネットワーク/インパクト・マネジメント・ラボ担当。中小企業診断士、認定ファンドレイザー。1983年仙台市生まれ。『発展的評価』を用いた評価者育成プログラムの運用や社会的インパクト・マネジメント等を通した社会的事業の改善、マネジメント支援に取り組む。組織診断やファンドレインジングの手法を用いたNPOや中小企業支援などにも携わっている。一般社団法人CAN net理事・事務局長。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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