原田勝広の視点焦点:養護施設の子は普通の子

そんなことを考えていたら、ボランティア団体、ACHAプロジェクト代表の山本昌子さん(26)に会いました。養護施設出身の子に成人式に振袖を着てもらおうとがんばっている女性です。山本さん自身、生後4か月で親のネグレクトにより乳児院へ。2-18歳までは児童養護施設で暮らした後、自立援助ホームで生活したそうです。アルバイトでためたお金と奨学金で上智社会福祉専門学校に入学、保育士の資格を取得しました。卒業後は児童館の学童指導員として働いてきました。

養護施設での生活は家庭的な雰囲気でみんな仲良しだったようですが、施設を出て一人になった時はつらかったといいます。

「学生でも親のいる子は22歳までは子ども扱いでなんでも面倒みてもらえる。それに比べ、私は、、、と考えてしまうこともありました。相談する人がいないのが辛かった。生きていく意味を考えて悩みました」

山本さんが打ちひしがれていた時、専門学校のACHAというニックネームの先輩が、「山本さん、生まれてきてくれてありがとう。あなたはみんなにとって大切な存在なんだよ。そう思って生きてほしい」と、振袖を着せてくれたそうです。成人式には間に合いませんでしたが、写真を撮ることができたんです。

振袖はレンタルでも着付け、ヘアメイク、撮影まで含めると15-20万円もかかり、経済的なゆとりがない施設の出身者の大半は着られません。自分と同じ境遇にある児童養護施設の子たちのために何かしたいと思っていた山本さんは施設出身の人に振袖を着てもらい写真撮影するプロジェクトを2016年に立ち上げました。山本さんの可能性を引き出してくれた先輩の名前をとってACHAプロジェクトと名付けました。

まずやったのはSNSを使って振袖の寄付依頼と、着付け、カメラマン、ヘアメイクなどのボランティアの募集でした。一方で、出身の養護施設や知り合いに、振袖を着たい希望者を募りました。このプロジェクトが報道されるようになると希望者が相次ぎました。支えてくれるボランティアは今150人。全国から寄付された振袖は80着になりました。振袖を着て撮影する料金は20-24歳は千円、25歳以上は3千円と格安です。男性の袴もあります。施設にいる七五三の子は無料です。

「友達が着ているのが羨ましかった。自分が着られるとは夢にも思っていなかったので信じられない思い」と振袖を体験した人はみな喜んでくれました。子どもといっしょに遅ればせの成人式を晴れ着で祝った仲間もいます。

その数は初年度、7人でしたが、年々増え、これまでに100人になりました。関東だけでなく、関西、九州にも広がっています。成人式の時期に限定されず、撮影は通年で行われるようになっています。

山本さんは明るいごく普通の女性だ。家庭の事情で施設に入り、人に言えない苦労もしましたが、試練を乗り越え、今ACHAプロジェクト代表として、企業にアドバイスしたり、大学で講義したりと大忙しです。キラキラ輝いていて、それでいて苦労した分、他人や周囲への気配り、心遣いもできる、そんな人です。(完)

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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