原田勝広の視点焦点:中村哲医師はなぜ死んだのか?

中村さん襲撃の情報は何回もあったに違いありません。これだけリスクに満ちた情勢下で、どうして中村さんの命を守れなかったのでしょうか。
志村卯三郎の話に戻ります。

いま思えば、軍靴にすべてが踏みにじられてしまったような時代に志村のような人が存在したこと自体奇跡に近いし、日本の誇りだと思いますが、意外なことに志村の貢献は歴史から消えています。

施療班の活動は、戦後、「軍の宣撫工作に利用された。戦争に協力したとの批判は免れない」と批判されたのです。戦争や紛争では、利害関係が錯綜、先鋭化し人の運命を翻弄することがよくあります。志村は中国に骨をうずめるつもりでしたが、戦争の激化で断念、日本に帰国後は路傍伝道と称して、貧しい人々のために尽くしました。

国家の枠を超え、虐げられている人々のために身を粉にし魂を焼き尽くした志村が、戦争の余波で思わぬところで揚げ足を取られ、失意のうちに晩年を過ごしたことは想像に難くありません。

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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キーワード: #NGO

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