東日本大震災では「絆」で他者への共感が広がり、企業CSRの質が高まるなど新たな時代を切り開いた。今回の前例のないコロナとの戦いに、国連SDGs(持続可能な開発目標)未来都市・横浜はリビングラボという協働プラットフォームを新たな武器として活用していく。
自粛で閉塞感に包まれるネガティブな生活環境の中で、何か自分にできることはないかという思いの人は多く、横浜の挑戦は他の地域でも参考になりそうだ。
リビングラボとは企業のラボ(開発機能)をリビング(生活空間)に持ってきたもので、オープンイノベーションの協働プラットフォーム。米国発だが北欧からEUに広がり、社会課題を解決するツールとして注目されている。
現在、横浜市内には戸塚、井土ヶ谷、磯子・杉田、青葉台など15か所にリビングラボがある。社会課題を解決するために企業、NPO、行政、大学など多様な人たちが集まっている。介護、子育て、障がい者の問題のほか、働き方改革、空き家対策、正確困窮者支援など地域の課題に取り組んでいる。行政の支援はあるものの民間、とくに地元の中小企業の経営者が起業家的精神で主導しているのが特徴だ。
これらのリビングラボと対になり連携しているのが情報プラットフォームローカルグッド・ヨコハマで、インターネットで関連ニュース発信やクラウドファンディングによる支援、NPO情報発信などに当たっている。
横浜市では、元々、中心街の関内・みなとみらい地区で市役所移転に伴う需要減で周辺飲食店が苦境に陥っているほか、プロ野球の開幕延期で被害の追い打ちを受けている。また、観光地の中華街もインバウンドの減少や国内観光客の減少で大きな打撃をこうむっている。構造的に製造業が少なく、サービス産業が中心の産業構造だけにコロナ感染拡大は横浜経済に深刻な影響を与えている。
横浜市共創推進課の関口昌幸担当係長は「チャレンジングな試みだが、我慢我慢の苦しい日々を送りながら、政府の支援を期待するという旧来の方法をとるのか、辛い中でも未来につながる何か新しいやり方に挑戦するのか、われわれは岐路に立っている。横浜市は幸いリビングラボという財産がある。ここに集まっている中小企業経営者、NPO,町内会、自治会、そして主婦、サラリーマンの人たちと困った時には助け合うことができるし、アドバイスをくれるひとたちもいる。リビングラボを活用して情報と人材、志を集めて未来につながる何か新しい希望を生み出したい」とローカルグッド・ヨコハマの試みに期待を寄せている。
SDGsは国連が「誰ひとり取り残さない」を理念に提唱したもので、単にゴール(目標)達成を目指すのではなく、現在の経済・社会システムを改革するためのツール。コロナ禍でいえば、SDGsのゴール3(健康的な生活の確保、福祉促進)のターゲット3(エイズ、マラリア及び伝染病の根絶、感染症への対処)に該当するのはもちろん、フリーターの収入減、突然の解雇(ゴール1=あらゆる形態の貧困を終わらせる)、飲食店の顧客減、食料の廃棄(ゴール12=持続可能な生産消費形態の確保)、学校の休校(ゴール4=公正な質の高い教育提供)、リーモートワーク(ゴール8=働きがいのある人間らしい雇用)など関連するゴールも多い。
横浜市にはCSR、SDGsやサーキュラー・エコノミー(循環経済)に力を入れており、先進的な企業経営者も多い。大川印刷は自宅待機が続く子どもたちのために、親子で楽しめるぬり絵と切り絵の提供を企画するなどの動きがあり、若手の経営者がリビングラボを支えている。
前代未聞のコロナ禍で、東京ではNPOのカタリバが、学校に行けない子どもたち向けにオンライン上の広場に集まってもらう居場所サービス「カタリバオンライン」を始めた。またトヨタ自動車は医療用フェイスガード生産や人工呼吸器の増産支援に乗り出すなど大企業も自社の技術、ノウハウを提供し始めている。こうした個別の動きをひとつにまとめ、いろんなセクターの人が知恵とノウハウ技術を出し合う必要がある。横浜の挑戦はモデルになる仕組みといえる。
(完)