多くのペットは家族の一員として「飼主」(という言い方にも抵抗のある方がいらっしゃるだろう)を癒し、また愛情の対象ともなり心身の健康の支えとなっている。不妊手術は経済的負担があることに加え、ペットの体にそのような手術をすること自体に抵抗感を持つ人も少なくない。
ペットを飼主が所有するものとしての観点からみれば、個人の財産としての保護の対象でもある。とはいえ、自然交配のままに任せたら、1組のカップルのネコが、栄養状態次第では1年後には50頭以上に増えていることもあり得る。
生まれてきた子ネコたちは、もちろん動物愛護管理法の保護の対象だ。なかば管理不能となって繁殖するペットたちは、周辺環境への悪影響など近隣住民の生活や、地域の生物多様性等、公共の福祉を脅かす存在ともなる。
それと同時に、彼ら自身も、今回の札幌での保護事例で推認されるように、狭小、不潔、不十分な給餌、疾病、放置など虐待被害を受けているケースが多いことだろう。
崩壊が懸念される多頭飼育に対する行政や地域の介入には、飼主の人権としての財産権や幸福追求権の尊重、個人情報保護と公共の福祉との兼ね合い、困窮・孤立する飼育者への支援との両立など、現在の法律の枠組みや行政の担当区分の中で、一部門では解決しづらい踏込みづらい部分も多い。
もとより、飼育者の責任として突き放すだけでは解決しない。環境省は、「社会福祉施策と連携した多頭飼育対策」との観点から取組みを推進している。各地域の包括支援センターとの連携なども模索されていると聞く。
飼えない数を飼ってはいけない、一生世話をする、テレビから流れるACジャパンの呼びかけを聞きながら、ペットを飼う以上、これは飼主の責任であるだけでなく、社会に対する義務でもある。このことを一人ひとりの意識においても、制度的な枠組みにおいても啓発し徹底していくこと。
これが解決の第一歩であり基本であると、改めて強く思い起こされた。
さかもと まさる (生きものコラムニスト)
(バルディーズ研究会通信198号(2020年1・2月号)から抜粋加筆)
●2020年6月1日から施行される改正動物愛護管理法にあわせて行政上の指針も改定されており、ペットの多頭飼育対策についてもガイドラインの策定などが盛り込まれている。