コロナにみる「その場しのぎ」の限界

入国者の管理を厳格化した台湾やニュージーランド、それに徹底した行動制限と検査を実施した中国などは、確かに市中感染を封じ込めるのに成功した。だがこの先はどうするのか。

世界の大部分でコロナが野放しである以上、どこかの時点で国民の大多数にワクチンを接種しない限りは、安全にはならない。だが接種に踏み切れば、発生確率がいかに低くても副作用による死者が、コロナによる死者を上回ることになってしまう。中国は辞さずにそれを強制接種するだろうが、民主主義国にそれができるか。

他国はともかく日本では、政治家の信頼度から考えても、ゼロコロナの状態であればワクチン接種を進めることは無理だっただろう。感染の長期拡大か、ワクチンの副作用甘受か。追い詰められて二者択一を迫られなければ、日本社会は動かない。だが実は、そのどちらであっても、免疫を持つ人は増えていく。ゼロコロナではそうはいかない。

このウイルスの特徴として、未成年者に命の危険はなく、20~40代の死者も極めて少ない。若いうちに罹患すれば、ワクチンを打つ以上に安全に、生涯にわたり重症化の確率を下げる免疫を取得できる。

つまり若者にとっては、抑止に失敗し高齢者が続々倒れているような国に住む方が、ゼロコロナ状態で暮らすよりも、老後の安全につながるのだ。子を持つ親は全員、この厳然たる事実を認識しておいた方がよい。

とはいえ筆者は、感染拡大による高齢者の死者増加は放置できるものではなく、遅かれ早かれ若者含む大多数が、副作用への国家補償付きでワクチンを打つしかないと考える。

その結論から逆算すれば、欧米の数十分の一の水準に死者数を抑えつつ、なおも感染拡大を抑えられていない日本の現状は、結果としてではあるが「いい塩梅(あんばい)」だ。

社会も会社も同じで、長期の存続のためには、その場しのぎへの誘惑に勝たねばならない。目先の保身に動くすべての人に対し、しのいだ先の終着点を冷静に指し示す。CSR部門はそんな存在であってほしい。

motanikosuke

藻谷 浩介(日本総合研究所主席研究員/オルタナ客員論説委員)

山口県生まれの56歳。平成合併前の全3,200市町村、海外114ヶ国を自費で訪問し,地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し研究・著作・講演を行う。2012年より現職。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』 (KADOKAWA)、完本・しなやかな日本列島のつくりかた(新潮社)など。近著に『進化する里山資本主義』(Japan Times)、『世界まちかど地政学 Next』(文藝春秋)。 写真:青木優佳【連載】藻谷浩介の『ファクト』で考えよう

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キーワード: #新型コロナ

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