細野豪志議員と森本・元環境次官が語る「原発事故後」

細野  とはいえ、原子力に関して新しい規制を作ることは特に異質でシビアな仕事だったと思いますが、今から振り返ってどうですか。

森本  原子力の組織と規則を作る作業ですね。役所では、新しい組織を作るにしても既存の組織の一部を発展的に伸ばすことが一般的ですが、これをとにかく否定しました。新しい理念で全く新しい組織を作ろうと暗中模索のスタートでしたけれども、非常にやりがいがあったと思います。

各省からそれぞれスタッフが来て議論しながら組織を作り、規制を作るという流れでした。しかし、あれだけの事故があって、その反省に立とうとする前提と理念は共有されていましたので、非常に活発で有意義な議論を経てできた組織だと思っています。繰り返しになりますが、今までの組織を否定して作った極めて珍しいパターンだったと思います。

細野  途中では国会で大いに翻弄されたり、お互いに苦心惨さん憺たんしながらも、なんとか次の年には法律を作ったわけですよね。

森本  法律を作ったことに加えて、規制委員会の5人の人選が重要でしたね。

これは本当に細野大臣にものすごくリードしていただきました。特に田中(俊一)委員長を説得していただいたことが一番大きかったと思います。組織というのは箱にすぎないので、最後に血とか肉を生むのは人であり、ヘッドの人選はとても重要です。あの時に福島出身であり、原子力について猛烈な反省の気持ちを持っておられる田中先生をリクルートしていただいたのは非常に大きかったと思います。

細野  非常に独立心の強い人でしたよね。何かを忖そん度たくしたり影響されたりを絶対にしない強い意志を持っておられたし、色んな意見があると先延ばしにされるケースが多い中で、難しい判断から逃げない覚悟をお持ちだったことも大きかったですね。

森本  いやー、大きいですね。そこの決断力とか肚ですね。肚の太さというのは大きかったと思います。残りの4人の先生方も、原発に厳しい批判が集中したあの時期に、敢えて火中の栗を拾うような形で来ていただいたというのは特に感謝していますね。

細野  田中委員長が勇退されたあとの更田(豊志)委員長にも、流れを引き継ぐ形でやっていただいて。その結果、規制委員会そのものが原発の推進派からは批判され、逆に反対の側からも批判されている。これは宿命ですね。

森本  これは規制組織の宿命だと思います。例えば、原発の再稼働についても一定のルールと科学的な知見に従ってジャッジしていくわけですから、科学的な点をクリアすれば最終的に許認可を出すのは当然の職務です。

細野  私は2012年の春に福井県の大飯原発の再稼働にも関わったんです。まだ福島の状況は深刻でしたが、関西では電力不足によるブラックアウトの可能性もあった。新たな規制組織ができていない中、政府として安全性を確認したうえでゴーを出したんですけど、本当に大変だったんですよ。2012年の9月に規制委員会と規制庁が発足した時に、本当にほっとしたことを覚えています。

森本さんは原子力規制庁の準備室長からそのまま規制庁のナンバー2の次長に就任された。そこで聞きたいのが、いわゆるリスコミ、リスクコミュニケーションなんですけどね。100点ではなかったかもしれないけど、規制庁はリスコミをかなり上手くやったと私は思っています。

森本  そうですね。田中委員長は、とにかく規制委員会は科学によって評価・判断するべきと常に言われていました。原子炉の審査はもちろん、リスコミも同じだと。その姿勢や言葉があったことで、僕らも自信を持って対応できたところはあったと思います。放射線の専門家である中村佳代子委員の肚が据わった飄々とした姿勢にも、非常に助けられた記憶があります。

細野  原発事故関連では、科学的ではない批判や論評というのも相当ありましたよね。例えば、事故直後は特に福島の食べ物の問題。今は処理水や甲状腺検査の問題が象徴的ですが、科学に基づいたリスコミというのは具体的にどういうことなんでしょうか。

森本  まずは、科学で言うところの客観的な「安全」の線をどこで引けるのかをしっかりと議論・指摘すること。もちろん、放射線も含めて完全かつ明確な線を引ける問題はそうないですけど、それでも一定の常識的なラインというのはあるんですね。しかし、問題が特に深刻化しやすいのは、安全かどうか以上に「安心」のほう。慎重かつ厳格な安全基準をラインに示したとしても、それだけでは誰も安心しないわけです。

では、具体的に一体何をすればいいのか。それは数字を掲げる以上に、その人たちが安心できる進め方、やり方、伝え方、プロセスが大事だと思います。特に田中委員長に指導されたことは、「誰が放射線のリスクを正しく伝えるかがとても大事だ」と。要するに、人と人との信頼関係の上に立たないと安心は醸成されない。これは我々としては目から鱗うろこで、その方法を一生懸命考えたんですね。

細野  田中委員長は処理水について海洋放出するしかないと早い段階で発言をされてますよね。処理水問題は非常にこじれているけれども、田中委員長が発言をした頃は今より静かだったかもしれませんよね。

森本  そうした積み重ねの結果として、「田中委員長が言われるなら科学的に合っているっぽいな」という雰囲気がありましたよね。田中委員長もそうでしたから、私も非科学的な意見には非科学的だとハッキリ答えました。真っすぐ向き合って逃げない対応を私もやらせていただきました。

まだまだ社会に不安が残っている時期には、科学的事実を単に並べても人の心に刺さらない。でも、ある程度落ち着いてきた時には、むしろ堂々と科学的なところで反論したほうがいい。言わないと分からないケースは間違いなくありますので。

細野  なるほど、よく分かります。森本さんは原子力規制の仕事を丸々3年やられたのち、2014年に環境省の中枢の官房長に戻られた。中間貯蔵施設が問題になってきた頃ですか。

森本  そうですね。当時、すでに除染作業はかなり進んでいましたけれど、除去土壌をどうするかが問題となっていました。その時期に、地元での施設受け入れも含めた中間貯蔵施設の具体的な議論が始まったという感じです。

中間貯蔵施設建設のための用地買収

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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