企業はミャンマーにどう向き合うべきか

日本企業は、キリンホールディングスが従前からその問題を指摘されていたMEHLとの提携解消に向けた交渉を開始すると発表したものの、そのほかミャンマーに進出している大手企業に目立った動きはない。

ようやく3月15日に日本の商工会議所から声明が出されたものの、市民の基本的人権の保護を訴える声としては不十分という声が現地からも聞かれる。 

特にクーデター直後は、ニュースで流れてくる進出企業のコメントは、事業活動の維持や継続に特化したコメントが多く、人権に対する現状のリスクを適切に把握、評価しているのか疑問を抱かざるを得なかった。

多くの日本企業は「政治的」問題には口を挟みたくない、挟むべきではない、と考えているようである。それは、たとえば、BLMといった人種問題、Me Tooといったジェンダー問題にも顕著だ。

サステナX

その点、森氏の発言に対するスポンサー企業の批判の声は嬉しい驚きだった。しかし、なぜミャンマーに対しては「政治的」な問題であり、企業は沈黙するのだろうか。

企業自体も市民社会の構成員として自分たちが信じる価値観に基づき行動しているから、社会的責任が問われる。事業活動は価値観を体現することであり、それに反する状況に対しては、どこであるかにかかわらず、発言して意思を表明することはむしろ当然ではないだろうか。

特にそれが今回のような一般市民の生命といった最も重要な人権の侵害である場合はなおさらだ。

日本企業の沈黙は、事態の複雑さへの戸惑いだけではなく、企業として民主主義、基本的人権を今一度、問い直す必要性を自ら示しているようである。SDGsバッジをつけるだけでは民主主義は実現せず、当然、持続可能な社会も訪れない。

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弁護士・佐藤 暁子

弁護士。人権方針や人権リスクアセスメントなど、国連ビジネスと人権に関する指導原則に即した人権デュー・ディリジェンスの実施に向けた社内体制構築とその実践強化に注力。「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」委員など政策提言にも取組む。認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局次長、国際人権NGOビジネスと人権リソースセンター日本リサーチャー・代表を経て、20224月より国連開発計画(UNDP)ビジネスと人権プロジェクトリエゾンオフィサーとして人権デュー・ディリジェンス研修などを担当。日本弁護士連合会国際人権問題委員会事務局次長、同ビジネスと人権PT。企業と社会フォーラム理事。Social Connection for Human Rights共同創設メンバー。ビジネスと人権ロイヤーズネットワーク運営委員。上智大学法学部国際関係法学科、一橋大学法科大学院卒業。International Institute of Social Studies開発学修士号(人権専攻)。共著「人権デュー・ディリジェンスの実務」(きんざい・2023年)

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キーワード: #ビジネスと人権

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